揺らぐ幻影
そして結衣は知っている。
女友達の大前提にある義務は『一番に打ち明けること』だ。
ならば田上結衣、なぜ友人に相談しなかった?
定義に基づくならば、この場合、
愛美に至らなかった点を里緒菜に悩みとして昨夜長電話をするべきである。
『夜中ん四時間も電話で語っちゃったよ〜』が女子高生の決まり文句な昨今、
十五歳の結衣は親友に真夜中の静けさに合った泣き声で讒言するべきだ。
なぜなら、彼女は日常的に典型的な高校生らしさを否定しつつも、ばりばりその気質があるせいだ。
だが、髪の毛がくるくるしている少女は知ってしまっている。
友人①に悪いことをしたからと、友人②に相談する人物は、
大切な友人①よりも自身が大事なのだということを。
――悩み相談は苦手だ。
友人②に、友人①に対してアタシこんなに反省してますとアピールしているようにしか思えない。
わざわざ自分が駄目だった部分を箇条書にしないにしろ、電話口で友人①への謝罪文を読もうが、
それは友人②に、『大丈夫だよ・そんなことないよ・悪くないよ』と、フォローさせたいからとしか見えないし、
二人の中で下がった自分の好感度を上げたいだけにしか感じられないし、
また友人②を利用して『凄く悩んでいい子だよ』と、
友人①に伝言させようという魂胆があるようにしか読めない、
そんな歪みが結衣というセコい女の子だ。
だから彼女は、ネガティブにオンナオンナした生徒と、どうも馬が合わない。
とはいえ、一応女子高生レベルの高い子なので、八方美人に振る舞えて当然なので、仲良くはできる。
結衣だけではない。
恐らく女子高生を送っている人たちは、そのせいか、
マイナス発言ガールに『またか』と、呆れることが多い。
そう、ここは学校、リアルな世界。
『結局結衣は庇ってほしいんだろ』、『また結衣のいつもの“そんなこといよ渇望症”だ』と、
皆が内心舌打ちする流れが教室の普通である。
相談したいなら、愚痴にならないように相談するべきだと、結衣はそう決めている。
理由は女子高生だからだ。
クラスで黙認されている常識の範囲内のルールだからだ。