揺らぐ幻影
「やっぱ大塚、大塚の癖にかっこよくなった」
「分かる、冬休みで生意気に垢抜けた臭い」
「共感ミチャコチャン」
昨日が締め切りの宿題に追われたり、携帯電話のアプリで盛り上がったりの騒がしい教室で、
結衣は友人二人とどうでもいい雑談をしている。
それは女子高生にありがちな男子のネタで、
近所のドーナツ屋さんの新人アルバイトらしきお兄さんが好青年だとか、
毎朝バス停で見かけるサラリーマンが無駄にハンサムでスーツが似合うだとか、
他校の男友達が超絶的にワイルドな色気があるだとか、
頭を使わなくて済むその場限りのお喋り、とにかく楽しいガールズトークだ。
廊下側一番後ろの結衣の席を囲う三人グループは暇人の集いなので、一斉に教室を見渡し噂の大塚を探した。
四角い中には皆同じように無難な紺のブレザーに規定のネクタイ、
季節感がない爽やかなブルーのシャツにブレザーと同系色の落ち着いたチェックのズボンを着た男子が半数を占めている。
襟の開け具合やネクタイの巻き方、セーターの合わせ方や靴のチョイス、裾のたるみ様だとかで、
彼女たちは彼ら本人の意志とは無関係に、カッコイイと判断するらしい。
もちろん髪型や眉の形なども、その低レベルな会話を盛り上げるツールになり、
見た目で判断するのは宜しくないけれど、皆が一緒の制服だからこそ個性が――
というより内面が分かり易いと結衣は思っている。
例えばわざと腰パンをする人はキチっと履くのが流行ればどうするのか、
緩く結ぶのが定番の今、あえてネクタイをきちんとしめる人はどういう心理なのか、
格好付けたいとか真面目さをアピールしたいとか、単純にファッションには興味がないとか、
あらゆる性格が目に見える形で浮き彫りになっていると踏んで問題はないのではないだろうか。
そして渦中の彼はというと?
垢抜けた、別人
目線だけで話題の人を捕らえた結衣は勝手に査定……いや、観察を始めた。
そう、プチトマトの栽培日記をつける小学生よりシビアな形で露骨にチェックモードに入ることが、
職業・女子高生の義務とも呼べるだろう。
基本、時間を持て余しているせいで人間観察ばかりをするアホな癖がある。