揺らぐ幻影
学生版だと王子様ってやつは主に市井雅だ。
そして近藤洋平、結衣だけのお花畑の国に住む可哀相な王子様に決定した。
結衣は近藤が話すことを黙って聞いた。
というよりは、嬉しすぎて返事を忘れていたため、
例により彼に一人語りをさせてしまうこととなっていた。
「コンペ、テーマ花だったじゃん? もう暴露しましょう、白は……ほら、田上様のイメージカラー?、で。その生地ん色は、ほら、俺の――ふはは、
ちょ、ナシ。今のカミングアウトは聞き流そう、ナシの方向。大人の対応で。はは、俺ねぇわ。はは。
キモ〜って振らないで、はは。
まぁその。好きな子に、ね。着て頂きたいワンピース、はは。キザに死語に、はは。
返品は受け付けないから、あはは、ほんとなんか不気味でゴメン、ふ。彼女なら我慢して」
つくづく反則、愛の表現にしてはなかなか痛く最高だ。
結衣だから幸せだ。
そう、この恋は三流愚作物語の始まりになるに違いない。
もしも映画なら観ないしドラマなら裏番組を見るし、小説なら読まないし、
漫画なら買わないしケータイ小説なら戻るボタンを押す。
絶対につまらない。絶対にお金が無駄だと思う。
だって展開にめり張りがないし、主人公の好感度は高くないし、文章が稚拙だし設定に穴がありすぎる。
それなのに、なぜか幸せ。
結衣と近藤の恋愛ストーリーだと想えば、大切で愛おしい。
なんだか笑える。
『彼女なら我慢して』
それは何の教科書の何ページに刻まれた名言なのだろう。
見つけたら赤ペンで二重に線を引こう。
テストに出なくても暗記したい、――ほら、この発想が女子高生クオリティーだ。
はにかむ二人は恋に関しては内気で、それでいてヤキモチ妬き、
それはきっとゆっくりと冬から春に咲くシクラメンに似ている。
「好き」
愛美と里緒菜に解放された手でワンピースを抱きしめた。
「いーや、お姉さん俺のが好きですよ」と、嬉しいことを言ってくれる近藤、
「キモ」と、冗談を言う愛美、
「イタい」と、皮肉を零す市井、
「鳥肌」と、揶揄を口にする里緒菜、
「みんな大好きなんだけど!!」と、叫ぶ結衣、
――ほら、これで素晴らしい駄作の完成だ。