揺らぐ幻影
大塚は整った顔なのに、眉毛の形が骨格に合っていなかったせいか、
髪がペタンとしていたせいか、あるいはネクタイを首に巻き付け過ぎていたせいか、
根本的にセンスがないせいで、どこか野暮ったく目立たない印象だったけれど、
俗に言う冬休みデビューをしたらしく、
結衣たちにカッコイイと、優秀スタンプを勝手に押されたこととなった。
もしも自分が食堂で働いていたなら、
彼のような生徒が来ると思わずオマケをしたくなるレベルの可愛がりたくなるルックスへと進化していた。
「前髪でかなり詐欺、なんかチワワ」
愛美が言う。
山瀬愛美は顔立ちが派手なので、小悪魔な感じと呼ぶのがしっくりし、
メイクはばっちりだと勘違いされがちだが、実は元々目鼻立ちがくっきりなだけで薄化粧のようだ。
ふんわりとトップを膨らませるパーマをかけた丸みのある頭で、
外にワンカールした毛先のショートヘアを、結衣は可愛いと思っている。
マドカ高校の美意識ではダークカラーが主流らしく、染めたのが分からない程度にほのかにアッシュがかった茶色の髪からは、
いつも微妙に桃の香りがする。
「でも結局トーク力ないし普通に幸薄いよねー」
性格は冗談が上手くてノリが良く、笑いに繋がる皮肉が最高で、
シュールな単語選びが結衣のツボだ。
――――と、友人の説明をお約束としてだらだら繰り広げるも、
結局一言でまとめると、主人公の親友はオシャレでとっても仲良しということなのだが、
ここは現役らしくセオリー通りに進もう。
愛美は私服もセンスが良くて、流行りモノを取り入れるのが上手いし、
夏はマキシ丈ワンピースがよく似合っていて、綺麗に着こなしていた。
クラスで一番目立つ派手な子たちに続いて、『オシャレだね』と言われる二番手ポジションに居る彼女とは、
入学式で手短に意気投合してからと言うもの、すっかり友情を育みまくっている。
ファッションに敏感なため、クラスメートの中で結衣が憧れる存在の一人で、
女子高生にとって参考になるのは、雑誌のモデルさんよりも美意識の高い同級生だ。
このように、うだうだ語れば語るほど読む気が失せるのが田上結衣による三流物語の魅力である。