揺らぐ幻影

アルバイト用の小ぶりなピアスや、UFOキャッチャーで獲って放置したままだったヘンテコな苺のキーホルダーなどを、

結衣は黙々と回収していく。

姑息な罠をくだらないとしても残念な子だと呆れてはいけない、ここは幼い少女の努力なので、優しく見守ってあげるのがベストだ。


  あー、あれだ、

  文庫本とかウエットティッシュとか知的な女らしいもん撒き散らせば良かった

  てか教科書ノートがない!!
  置き勉バレバレじゃん

  やだー、あほ丸だし


練りに練った計画のはずが、肝心な鞄の中身にまで考えが及んでいなかった。

そう、クッキーは練るモンでもないらしく、『切るように』と、ほとんどのレシピに注意書きがあるではないか。


なんだか、お近づき作戦は大失敗かもしれない。

何かとツメの甘い自分に耐えられなくなり、

ちらっと愛美を見ると、わざとらしく親指を立てウィンクをされた。

いつの間に移動したのか、その隣ににこにこした里緒菜が様子を見守ってくれている。


  ……。

僅かだが確かに落ち着く心――彼女たちは母親のような存在であり、精神安定剤な役割を持っているとオーバーに感じた。


朝からハイテンションな気流は廊下を行ったきりで、呆気なく消えてしまう。

突き当たりの壁を何食わぬ顔で通り抜けるのだろうか。


携帯用のガスコテが壊れるのが不安で予めタオルに包んでいたが、どうやら衝撃を守られたようだ。

結衣がほっとコテを確認していると、「はい」と、プリクラ帳や筆箱などを一まとめに渡される。


この声の主は彼ではなく彼の友人のものだった。

持ち主に手渡し立ち上がる市井はにっこりと笑い、至近距離の眩い表情はキラキラした夏休みの海が似合う太陽のよう。


  、!……

今は冬。
服も食べ物もランドセルも前倒し商戦が流行りらしいが、いくらなんでも夏はまだ半年先。

ここは北半球。
とびきりサマーな笑顔の出番ではない、もうしばらく大人しくしていていただきたい。


無防備にフェロモンを撒き散らさないでほしい。

服飾コースの勝ち組である市井の顔は素敵過ぎて、結衣は困ってしまった。

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