揺らぐ幻影

顔だけでは興奮が足りないのか、手首まで朱が差していく。

  市井にも赤くなるとか

  ……情けな、

好きな人以外でも、世間で言うところのイケメンにならときめく調子の良さを自重しつつ、

結衣はスパンコールでお花柄になったメイクポーチや手書きの力作表紙のプリクラ帳らを受け取った。


「、あの、ありが、と」

本当は近藤に言いたかった言葉だけれど、この場合仕方がない。


「いーえ、紳士ですから」

  !うっわ、……

  なにこれ

悪戯に笑う完璧な顔も冗談を交える余裕も、学年一人気者なのだと実感するには十分で、

だから、そのような人物の親友というポジションを得ている近藤は、結衣にとっては凄い人な訳で、

すなわち手が届かない人のようで――だから、だからだから頑張りたい。


後ろ姿を追うのが趣味なのだろうか。
根っからのストーカー気質なのだろうか。

近藤の背中が好きだ。
あまりがっしりしていないのだけれど、華奢な感じがスタイリッシュでツボだ。

後ろから突然飛びついておんぶをせがむ子供になりたいと思った。


内容量は変わらないのに、右手を重たく感じるのは何故?


鞄の中身に人柄があらわれているはずだ。

一円玉や十円玉お釣りを放り込んだままのだらしない人や、

きちんとポッケを有効に活用し整理している細かい人、

そして品性のかけらも詰まっていないそれが結衣という生徒。


夢見心地で立てないでいる彼女の隣に、すぐさま入れ代わるよう友人二人が駆け寄ってきた。

「やった結衣! やったじゃん、ポッケ歌えよ」

里緒菜はネタで茶化すのが上手な子で、

「偉いよ、稀に見ぬ成長ぶりが母は嬉しいよ」

愛美は皮肉な毒ぶりが面白い子で、

良かったねだけで言葉を終わらせない二人の性格が好きだ。

白々しいくらいの綺麗な台詞ではなく、身内ノリを優先させる二人が好きだ。


愛美と里緒菜は結衣の大切な存在だけれど、彼女はそれを本人らに伝えやしない。

例えば窓の外。
三人の価値観だと、普通の女子高生が『今日の風は胸が凍てつくような切なさで……』なんて表現を口にしやしないため、

『イタイ』の一言で乱雑に終了させる。そんな感じ。

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