揺らぐ幻影
朝の会は内容が薄い。
毎日毎日ニュースも起こらないため、諸連絡も必要なく、
出欠を確認した後は雑談といった感じだ。
お昼休みに学校を抜け出してコンビニに行かないようにとか、
電車のマナーが悪いと一般の方から電話があったから気をつけなさいとか、
たまに重要なお叱りがあるくらいで、
E組の担任は適当主義であるため、
新聞の見出しをなぞって人生勉強になる有り難いお話をしたりはしない。
けれども、今日は高校生にとって、とんだビッグニュースが舞い降りた。
抜き打ちで頭髪検査をするというサプライズ報告に、
クラスメートは顔を歪めるも、携帯電話を取り出しカレンダーに魔の日を登録している。
唯一電子器具を手にしない女子生徒は相変わらず真っ赤な顔で、スピーカーのある斜め上を見ていた。
恋をすると不思議ちゃんのように、天を仰ぎがちになるのは何故だろう。
廊下を歩く時も自転車に乗っている時も、アルバイト中も気付けば結衣は斜め上を見ている。
何か因果関係はあるのだろうか。
論文がないなら彼女は今から自分が研究をしたいとビッグマウスを叩けるくらいな気分だった。
第三者からすれば、荷物をぶちまけ困っている人を目撃した際に、声をかけるだけで何もしなかった近藤よりも、
すぐにしゃがみ込み、廊下に膝をつけた市井の方が優しくて親切な人と設定されるのだが、
結衣にとっては前者が救世主であり勇者であり天使であった。
これは片思いのラブリーえこひいきだ。
大丈夫って名言!
後世に伝えなきゃじゃん
てか声!!
あまーいとろける、犯罪級
妄想ばかりの幸せなため息をつくことが、隣の席の人には貧乏ゆすりばりに気に障り、大変迷惑だなんて気付くゆとりもない。
頭の中を支配するのは好きなお方にまつわることだらけで、
逆に言えば、それ以外にはちっとも手が回らなくなる。
学校がデートスポットになれば良いのにと、意味不明な願望を抱く少女の優先順位は、
保護者からは眉をひそめられるであろう内容になっているが、
若気の至りという言葉を乱用してしまえば、特に問題はない。