揺らぐ幻影
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灰色の空気が世界を包む。

中学の時に友人の家でオールをして気付いたのは、十一時を越えたら夜は静かなこと。

たまに救急車のサイレンや暴走した車のブレーキ音がうっすらと歌うだけで、外は眠っていること。

四時くらいに郵便屋さんのバイクの音がしたら、今日を持ってくること。

鳥は五時くらいに一羽が鳴き出すと、だんだん合唱を始めること。


そうしたらカーテンの隙間から光が現れて……



  眠、……眠くてとける

  私口癖が眠いじゃない?

  でも眠い、眠い眠い

シャボン玉を塗る時に似合う薄めな水色のシャツはボタンを三つ開けるのが主流、

濃いめの青リボンは大きいので可憐だから、お気に入りだ。


控えめな紺のブレザーと細かいチェックのスカートに、規定外の女の子らしいベージュのセーターがよく馴染むので、

ベストコーディネートを完成できた結衣は、自分のファッションセンスがあると思っているし、

女子はリボンかネクタイか選べるところを、交互に付けている自分は遊び心もあると評価している。


そんな自己アピールの象徴である制服に身を包むも、彼女は眠たくてたまらない。


最近ではガールズ消費という単語があるように、結衣世代にアルバイトは欠かせない。

というより、お小遣稼ぎをしていない子の方が少ないのかもしれない。


好きな人が居るときは見た目に気合いが入りがちで、お化粧品をあれこれ試したくなるし、

もし付き合ったらデート服が必要だし、遊ぶには交通費だっているし――とにかく乙女にお金が必要だった。


甘い妄想が膨らむ分、現金は無限に必要だった。

聞こえは悪いが、切実な願望。
健気で可愛らしい欲望。


大金が欲しいとかブランド物が欲しいとか家計が苦しいとか将来の為にとか、

そうではなく、単純に遊ぶ金欲しさがほとんどだ。


また、好きな分野だと働く内に知識が増えるため、仕事をした分がお金になるよりも素晴らしいことを知る機会になるし、

学生時代における微笑ましいアルバイト話は数年後の持ちネタになるメリットもある。

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