揺らぐ幻影
お金は現代の魔法だ。
シンデレラが木を揺すったら綺麗なドレスが出てきたように、女の子は男の子に会う時は着飾りたくなる。
例えば、どうせ剥がれるのに二千円も出費するなんて信じられないけれど、
普段使っているマニュキアよりワンランク上のものに手を出したいし、
効果なんてよく分からないけれど新しく聞くカタカナ、ナノとかヘッドスパとかアミノなんとかだと有力に思えるため、
髪のケアだってドラッグストアで買ったお家サロンよりも美容院で渡されるトリートメントをしたいし、
そうやって自分に合うお化粧品を研究がてら模索したい。
何よりお金があるだけ、好きな人の彼女のポジションに近付ける気がした。
「んー……眠」
漫画やドラマのようにぺちゃくちゃ実況がてら語り出しはしないが、誰しも短い独り言を唱えがちだ。
眠たい結衣は恋をパワーに身支度を整える。
真ん丸にしたくて、やり過ぎると目を瞑った時にハロウィンメイクかと間違われる恐れがあるので要注意だが、
黒目の上のアイラインを昨日より気持ち太くしてみた。
そしていつもより長めにホットビューラーをあててみる。
最初は眼球がやけどするんじゃないかと怖かったけれど、慣れたら楽勝だった。
昨日よりも少しチャレンジして今日をアレンジをするのが乙女心だ。
電気をつけていても、まだ薄暗い朝になりきれていない部屋を、遠赤外線の温風機が気持ちほかほかする。
本来なら布団の中ぬくぬく夢の世界で眠っている頃だが、
そうはいかないのが片思いの国に住む人間の宿命である。
ねーむーいー
栄養ドリンク飲むべき?
昨日のアルバイトは本当に忙しかった。
トイレの調子が悪くホールの人間を奪われ、
夕飯ピーク時に結衣一人がオーダーやら配膳やらに駆り出されたからだ。
しかも手間がかかる御前メニューばかりなぜか人気で煩わしかった。
お風呂から出た時には、あまりの疲労感にもう髪を乾かさずに眠ってしまおうかと思ったが、
翌朝寝癖で困るのは自分なので、睡眠時間を削減することにした。
そのため、とりわけ今朝は眠くて眠くて仕方がない次第である。
といくら言おうが社員さんには劣るのだろうけれど。