揺らぐ幻影
髪切ろっかな、
乾かすの疲れる
近藤くんロング派? ショート派?
てか近藤くん黒髪似合いそ
睡眠不足の体内は血の流れが遅そうだと思いつつも、お化粧をしている間に余熱が完了したコテを結衣は握った。
実際に巻き髪をしている人にしか分からない苦労がある。
それはブロッキングをすると軽く言うけれど、縦に分けるか横に分けるか、
あるいは左右に分けた髪を更に上下に分けてから、それを縦に分けるか横に分けるか……
同じようにコテに巻きつけるとしても、分量次第で全体の膨らみやカールの重なりが変わり、
まるで別人になるため、大変難しいのだ。
慣れても失敗する日だってあり、朝から頭を使うため、毎朝女の子は日々研究に大変苦労をしている。
その辺、『コテで巻いた』の安易な一言だと、リアリティがないと結衣は思う。
諸々の事情で体力もないというのに加え、元々低血圧なので余計早起きは辛い彼女は、なんと気分まで落ちていた。
原因は昨日担任が帰りの会に遅刻してきたので、偶然奇遇作戦を実行できなかったことだ。
近藤が居ないと世界は変わる。
ドキドキしない冴えない世界に退化する。
そんな感性を、結衣は大袈裟で馬鹿げていると重々自覚していた。
というのは、近藤に恋をする前だってそれなりに楽しく過ごしてきたはずだなのに、
彼と会えない時間が百八十度つまらないなんておかしな話だからだ。
けれどある人に出会ってしまった……
これだから恋愛体質のゆるい頭は、よく世間でこばかにされるのだろう。
恋に一喜一憂しメンタルがすぐに仕事や勉強に影響してしまうなんて幼稚だと。
確かに迷惑だろう。
『今日はフラれたので休みます』、『浮かれていてミスをしました』など悪ふざけもいいとこだ。
それにいちいち悲壮感を漂わせられたら、周りに居る人も気分を害する。
悲劇のヒロインちゃんはアタシ切ないと、ため息や憂いを帯びた表情で熱演しがちだが、
他者からすれば、『大丈夫?』と気にしてもらいたいだけの自己愛女と見なされかねないので、
恋愛を態度に出し過ぎるのは大変危険であることを気をつけなくてはならないと言えるのかもしれない。