揺らぐ幻影

四棟ある校舎は進学コース用以外、どれも同じような内装だ。

ホールや体育館も私立みたいなデザイン性豊かな装飾だと気分が良いし、

逆に、いつ壊れるか分からない県立の古臭い感じも哀愁があって好きだ。


前者と後者、どちらが優れているかの論争は無駄だ。

結局自分が過ごした時間の溢れた方が素晴らしいだけで、たったそれだけのことに価値がある。


ちなみにマドカ高校は、私立かじりな県立だと生徒間で分類されており、

そこそこ街中で制服を着て威張れる認識のようだ。


「里緒菜から。ぽこりんもうすぐ来るって!」

偶然奇遇作戦を行う朝は、それだけで青春していると実感する。

よく世間で『恋をしないと人生の半分損をする』と言われているが、

正にその通りだと結衣はやっと理解することができた。


好きな人がいると友人との連携が高まり、以前より内側から付き合っている感じがするし、

とりあえず毎日笑えて充実感がいっぱいだし、つくづく良いこと尽くしだ。


外にワンカールした髪を左手でいじりながら、愛美は続けた。

「市井はチャリでぽこりん電車なのに待ち合わせとか笑えない? どんだけ仲良しーって」

「待って、リアルにぽこりん定着?」

  なんかマヌケじゃない?

  ダサいし可愛くないし

ホッペを膨らます結衣に構わず、友人は大袈裟に人差し指を立てて力説する。

「決まってるからぽこりん。りんってウケる、近々流行るから。

なんならゆいりん、りおりん、あーー、まなみりんって語呂悪いかもし――「ダメじゃん、だったら市井もみやびりんじゃん、合わないしダッサイ」

自分で言ったことにアハハと笑えば、愛美も同様にアハハと笑う。

アハハの効果音はキーボードに入力されていそうな安っぽい感じが、これまた女子高生らしくて心地良い。


他人からすればポイントが謎の高校生らしい会話のやりとりのツボが分かる人は、

きっと童心があるのだろうと結衣は定義している。

面白くなくても笑えなくても、好いている人が言うからユニークに思えてギャグに繋がるだけで、

そういう間柄の人が居ることは凄く素敵なことだと言えるのではないだろうか。

なんて、どうせ明日には忘れるのだけれど。

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