揺らぐ幻影
そしてまた、何も面白くないことも女子高生プラス恋愛中となれば話は別だった。
些細なことが笑いになり、にこにこと口角が上がるもので、
恐らく『女の子は恋をしたら可愛くなる』という定義は、
片思い特有のにやけ顔を指すのだろう。
なぜなら、ハードだった昨日のアルバイト中の結衣なんて、ずっと笑顔だったのだから、
この論は間違いないはずだ。
更に日常で苛々することが減る上に、心にゆとりができて融通が利くようになるため、
恋愛中の人の評価は他者から抜群にアップするものである。
良いところを見せたくてキャパ以上を張り切るため、意中の彼以外の人からも好感度が上がる。
ほら、こんなにも簡単に人間関係を円滑にするなんて、片思いの偉業は果てしない。
「あはは、あ〜ほら時間だ時間、ユイりんとぽこりん渡り廊下で育む愛〜、とか笑ってる場合じゃなく、はは」
ぽこりんというゆるいフレーズにさえドキドキと高鳴る胸に、結衣は疲れてしまいそうだった。
あれだけ嫌がっていたあだ名なのに、ぽこりんという音には、もう近藤の顔しか浮かばない。
彼を想うだけで、耳の裏から蒸気が出そうなおかしな感じ。
恋愛にハートはつきもので、ハートの元は心臓……だから近藤のことを考えると胸が狂って――
はあー、緊張する
すれ違うだけでも一大事とか
どんだけ乙女よ私
別方向に歩く二人が重なる瞬間で時間が止まればいいのにと、何度願っただろうか。
今の結衣は真面目に恋の妖精さんを見つけられる気がした。
もちろん痛いと自覚しているので口にはしないが、それ程に可愛い思想となっていた。
片思い最中は、微笑ましいものが好きになる。
いちご、さくらんぼ、蝶々、こねこ、お花、シャンデリア、鍵、リボン、これらがモチーフとなっていたり、あしらわれていたりすれば完璧で、
ピンク色やレースやフリル、キラキラしたものが欲しくなる。
それらを収集すれば、なんだか女性ホルモンならぬ乙女ホルモンが急上昇する気がした。
外見以外にも、内面さえも好きな人が自分を変身させてしまうなんて、これはとんだ安いミラクルだ。