揺らぐ幻影
マドカ高校の無駄に横に長い廊下の真意を誰か知っているのだろうか。
今の結衣には、好かれて嫌な女子生徒を男子生徒が避けるために幅を要したとしか思えなかった。
「ぽこりんシャイすぎ、会釈くらいしやがれや」
あまりの反応のなさに愛美も気まずさを覚え、友人が傷付かないように彼女にしては珍しくフォローをする。
三人は庇い合い支え合い高め合う友情感は色んな意味で痛いと考えているため、
この優しさは少々珍しいことだった。
シャイ……、?
「……シャイ、なの?」
オシャレな近藤は寡黙な草食系の風貌だが、それなりにイケメンなので中学でモテた経験があるだろうから、
恥ずかしがり屋や奥手には思えない見た目をしているけれどと、疑問だった。
「まあ、でも、あれだ。馴れ馴れしいオラオラより良くない? 結衣にはおっとりした男が合ってるよ。まったり。おじゃる」
自然に合流した里緒菜もしっかり助言に冗談を挟みながら、ニッコリ微笑んでみせた。
マイナス発言よりプラス発言をする友人は、いつだって結衣の味方だ。
失敗の後は作戦を練る。
円陣を組む三人は自分たちに夢中なので、周りなんて見えていない。
すれ違い様に皆めいわくそうに二度見をするが、
他人なんてお構いなしに友情にのめり込んでいる彼女たちは、廊下の真ん中を譲らない。
チャイムと同時に無理だと嘆く結衣に対して、神妙に慰めたり熱心に励ましたりはせずに、
「うるさい田上! うざキャラ、体育が勝負ですからね」と、里緒菜は気にせず斬った。
偶然奇遇作戦女子会議に思いやりや同情はいらない訳で、
両思いに貢献する発言ならば無礼に値しないのだ。
むしろハッキリ言うだけ結果的にプラスに働くのだから、これは有り難いことだ。
『可愛いね』とか『親友だよ』とか、大して思ってもないことを平気で言う女子特有の馴れ合いは、
今の結衣にはマイナスにしかならないし、自分の性格的に嘘臭い女だと残念に思うので無理だ。
愛美と里緒菜が友人で良かったとつくづく気楽に感動してしまった結衣。
午後から雨と言われた午前中の空は、西の上から徐々に曇りだしていたが、
少女の心は正反対に晴れた日のように爽やかだった。