揺らぐ幻影

どんよりとした空からは冷たい雨が降り注ぐ。

どうして太陽がない日は天井が低くなったような気がするのだろうか。

小粒のそれは体温を奪うのだけれど、作物には恵みであるのだから有り難く思わなければならない。

しかしながら現役女子高生にとっては、まつ毛のカール力も巻き髪のキープ力をもなくしてしまうので、湿気は天敵でしかない訳だ。


「どうしよう、まさかの雨」

「雨かよー、作戦未遂じゃん」

「ついてない」

雨の日の体育館には運動場の二クラス分の生徒がおり、近藤を捜すのも厄介なくらい人ばかりだ。

まるで公開初日の映画館のチケット売り場のよう……なんて最近は予めインターネットで予約ができるので、

ここは二千年くらいの座席指定ができなかった頃の人混みを結衣は連想させた。


「今日は三年と運動場組にコートを譲るから、E組とF組は卓球ー。十分ごとに交代、ほぼ自習だな、適当にやれよー」

体育館の隅におざなりに設けられた卓球スペース前に集められた生徒らはラケットを手にする。


端という端に六つしか置けなかったため、二十四人しかプレーできない現状は、

体育が苦手な結衣的にプレイ時間が少ない方がラッキーだった。


また、

  近藤くんいっぱい見れるっ

好きな人を贅沢に観賞できるので、実写版映画の始まりにワクワクしていた。


「作戦変更だねー」

「バラバラだもんねー」

背の順にペアを組むので三人は離れることになり、これでは何もアクションが行えなくなってしまった。

  雨は嫌いー

  でも近藤くん見れるなら雨も好き

恋愛しか頭にないのかと、勉学に励まないのかと叱られるかもしれないが、

やはり恋愛にだけ嵌まれる内は今だけだと結衣は思う。

また、“恋愛だけ”と言うけれど、恋愛を通して友人との親密さが増すし、

アルバイトも頑張れるし、人に優しくなれるし、

トータルで見ると明るい未来に働く要素が多いと結論付けて良いのではないだろうか。


熱気で徐々にあったまる温度は、冷凍していたパン粉をバッドに広げて手を入れたくらいひんやりしていた。

< 79 / 611 >

この作品をシェア

pagetop