揺らぐ幻影

唯一同じ時間を過ごせる体育は貴重な授業なので、作戦が実行できないのは惜しいが、

この際スポーツをする近藤をひたすら眺められるならヨシとしようと思った。


「結衣ちゃん卓球好き?」

愛しの彼をさがそうとした結衣に話しかけるのはペアの奥だ。

彼女は結衣のクラスで一番の美女だとされる生徒で、服飾コースの子たちにも受け入れられている唯一の人でもある。

お化粧はしっかりとしているのに見た目は薄く清潔で、

質の良いエクステの髪は自然に外巻きで、前髪をふんわりとポンパにしていてオシャレで可愛い。

何より黒髪が決まるのが素敵な証拠だ。

  綺麗、

  二十四・五に見える色気


奥の下の名前は当て字で画数が多く、初見で読めない上に日本人離れしたイマドキらしい漢字をしており、

本人は小一の時からコンプレックスで嫌がっているらしく、

皆、彼女を『奥サマ』と、名字で呼んでいる。


平成らしい名付けには抵抗がある結衣的には、将来子供に付ける予定はないが、

否定ばかりするのも失礼だから世相を反映していてアリだと受け入れたいも、

奥のような子供目線では複雑らしいので、やっぱり慎重にならなくてはと気付かされたエピソードがある。


「ううん、全然。だって卓球ラケット空振りするくない? つまんない。奥サマは?」

「だよねー分かる、で、だんだん拾い行くのタルくなるじゃん? 応援係になろ」

「やった、実は私も思ってた。ブブゼラないけど」

体育に対する情熱のなさが一致したので、壁際に移った二人は床に座り込んで談笑を始めた。


女子生徒は入学してから仲良しグループを作り上げると、

なかなか他の軍団と密に接しなくなる不思議。

いつも属している集落から三回くらい休み時間に離れてお喋りをしていると、

『うちらと居る時よりあっちのグループと居る時のが楽しそうじゃん?』と、摩訶不思議な圧力をかけられる時がある。

一般的に一度所属すると脱退するのは命掛けなのかもしれないが、

結衣たちのグループはそんな女子ルールを痛いと思っているため、その手のことには寛大である。

お互いが楽しければいい。
粘着質なのはユニークではないから、避ける性格の集いだった。

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