揺らぐ幻影
高い天井にはボールが挟まっていたり、バトミントンの羽根がネットに絡まっていたりする。
小学生の頃は故意にボールを打ち上げ怒られたものだ。
「最近結衣ちゃん髪かわいーね」
「えー何そのお世辞、奥サマに教えて欲しいし。私あれだよ、油断したらコテの挟み方間違えて毛先がハネるから。スネオ君だから!」
オシャレな人に褒められる方が、テストで良い点をとった時より百倍嬉しいのが乙女心。
例外なく、結衣は否定しながら少しにやけてしまった。
鏡の中で髪を巻くと左右反対なので、よく考えて手首を動かさないと内巻き外巻きがたまに混乱してしまう。
もっとスムーズにいじりたいものだけれど、一度こんがらがると大変で、たまに焦がしてしまう結衣だ。
「奥サマってメイク上手じゃん、なんで?」
引き算メイクが似合う派手派手しくない瞳は、結衣を魅了するには十分で、
また、セーターのアレンジの仕方やチークの色使いの豊かさや、ソックスの刺繍がコアな点も、
同級生の彼女は結衣にとってショップ店員さんを思わせるくらいのセンスの良さで、
以前からビューティー講座をぜひ習いたいと思っていたため、
ここぞとばかりに質問攻めにした。
というのも、奥は休み時間に宿題を必死でしているので、なかなか絡む機会がなかったせいだ。
可愛くなって好きになって貰わなきゃ……
近藤くん巻き髪好きそうだし
クラス一番の美女に手ほどきを受けよう。
軽やかな音は可愛らしく、反射神経がイマイチな結衣は卓球は苦手だが、
目を閉じて霞んだボールの跳ねる音を聞くのは好きだったりもする。
ドーナツを揚げている時のようなメルヘンなメロディーに似ているから、なんだか癒される。
「お風呂のあと髪乾かす時にね、がっつりブロッキングしてロールブラシで癖付けしてー……」と、女子力向上話が始まったので、
一生懸命覚えようとした時に、瞳の端にコロコロと転がってきたのは、
――――黄色いピン球。
凹んだらパコっと玩具みたいな音がする丸は、いつだって不安定だ。