揺らぐ幻影
寝癖風のパーマでふわふわした髪が浮かぶ、ちらりと見える耳が可愛い。
少し猫背になる感じが新鮮――結衣がサボる卓球も近藤がしているなら尊い不思議。
唇を突き出して結衣は好きな人を眺めた。
あーあ、世間話できるくらい仲良くなりたい
業務連絡みたいな会話なんか嫌だ
あーあ、なんか微妙
ぎゅっとラケットを握った。欲張りになる。もっともっと近付きたい。
いつでもいつまでも彼の視界におさまっていたい。
体育館が青春臭いのは汗をかくからだろうか。
あるいはスポーツを頑張る姿に恋をするからだろうか。
卒業した後で小学校に行くとフェンスや遊具、校舎や机、なにもかも凄く凄く小さく見えた。
あの頃は無限にあった敷地――休み時間に運動場を走り回るのは一大イベントだったのに、
歳を重ねて見渡すと、凄く凄く狭かった。
ひょっとすると、子供たちは空間を操り自分たちに合った世界に広げていたのかもしれない。
あの頃を懐かしむように、今を懐かしむ日が来るのは妙な感じだ。
彼氏はできたのかと問う奥に居ないと即答した。
「じゃあ結衣ちゃんバレンタインは?」
「んー? 友チョコ、?」
「えー、私どーしようかな、バイト先の大学生に良い人居てさぁ、あげたいけど迷ってて――「えーっ絶対あげなよ、社交辞令ですーで、あげなよ!」
イベント事は大好きだ。
妄想してきた分の理想が蓄積されているので、奥に自分のバレンタインを重ね熱弁した結衣だ。
「あははっいいね。勘違いするんじゃねーよ社交辞令ですからー、みたいに」
「そーだよ、とりあえずあげなって」
好きな人が居るならバレンタインはチョコを渡すべきだ。
――そう、バレンタインは告白をする日。
興奮した乙女は両手を思いっきり広げ――何やら鈍い濁音と、「いてぇ」という声がして――
「っえ?」
こんな展開はあるはずがない。
不自然だしうまく行き過ぎている。
使いまわされたエピソードは面白みに欠ける。
それでも、これはたまにあるリアル。