揺らぐ幻影
市井雅や近藤洋平のクラス・服飾コースといえば学年のイマドキ女子軍の巣窟で、
専門性の高い専攻の特色もあってか、学年の取り分けオシャレで可愛い子、
派手なギャル、センスの良い子がよりどりみどりの華やかな教室なのだ。
“マドカの服コ”という肩書きは結衣たちが住むショボイ地域だと絶大で、
他校からも人気があるのが大変ティーンらしい現状だ。
どのくらいかと言うと、地元情報誌にマドカ服コ日記という謎なスクールガールの連載さえあるレベルだ。
だからこそF組の女子生徒は美意識が強く、
自分が一番可愛くないとという執念にかられている者が多い。
それ故に、女子の世界には縄張りがあるようだ。
大奥のようなものと結衣はなんとなく思っている。
そう、他クラスの女子が自分たちより目立つことを好ましく思わない節がある。
とはいえ、さすがに社交性があり社会人スキルの分かる高校生という年頃なので、
ここは現代のお話の為、調子に乗った女子に対して露骨に厭味を口にしないし、なじったりしないし意地悪だってしない。
ただ、内心喜ばしくは思われないだけ。
しかも彼女たちはフレンドリーでオシャレに追随している為、それさえ顔には出しやしない。
その水面下の探り合いが女子高生の微妙な心理戦に感じられ、
暇な結衣たちは大奥だとギャグに皮肉めいた名称を付けたのだった。
加えて、仮に自分の顔面偏差値に自信があったとしても、
比べる前からオシャレ具合やセンスが服コには劣るので、
F組以外の皆は、わざわざ美女の中に乗り込み、自分の魅力のなさを知るのは痛過ぎる故に、
あまり近藤洋平たちのフィールドには寄り付かない。
どうせならぬくぬくしていたいものだ。
愛美も里緒菜も、もちろん結衣も。
それが普通の女子高生。
メルヘンに喩えるなら、小間使いの女の子は着て行くドレスもないのに、
貴族たちのお城の舞踏会には参加したくない感じ。
負け戦は素直に見送りたい感じ。
その癖、ドレスさえあれば王子様を落とせるのにとナルシストに思う感じ。
それが恐らく普通の女の子らしい本音で、自分が一番カワイイ痛さが最大の武器だと知るのは、二十歳を過ぎた頃であろう。