一なる騎士
「なっ」

 あっさりと返った言葉はリュイスの理解の範疇を越えていた。
 あまりにも越えすぎていて、とっさに反応できなかった。

「大地の剣に触れられるのは、王を除けばその騎士だけだ。君になら剣を破壊することが出来るだろう。そうすれば、もう王を選ぶ必要もなくなる。『一なる騎士』としての役目からも解放される。よく考えてみろ。王となったたった一人の人間が、大地を苦難に陥れてしまうことだってできるんだぞ。そんな王なんて始めからいらないんじゃないか。大地を、いやこの大地に生きるすべてのものの命運をたった一人の人間に背負わせるなんて、もともと無謀過ぎる仕組みなんじゃないか」

 そこまで言われてようやくリュイスの頭が回り始める。
 こんな、こんな不遜なことを言わせていてはいけない。

 大地と王をつなぐ剣。
 女神より授けられし剣。

 それを破壊しろなどと。
 これでは、女神に対する冒涜ではないか。

「あなたは、ご自分が何を言っているのかわかっているんですか。大地の剣を我らに授けたのは、大地の女神なんですよ」

「女神に対する冒涜だとでも?」

 エイクの平静な切り返しに、リュイスは必死に内心の苛立ちを抑える。
 このどこか得体の知れない男に対して、怒って見せても逆効果な気がした。

「大地の剣がなければ、大地に流れる『気』は制御されない。気が荒れれば、世界も荒れる。精霊も勝手気ままに振舞う。いくら王が乱心しているとはいえ、今の比じゃない」

 だれもが知っているはずのこと。
 しかし、エイクは鼻で笑っただけだった。


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