一なる騎士
「そうだ。まったく、すごい人だったよ。彼は生まれながらの真実の探求者だった。その癖、世事には疎くて、人を疑うことをしらなくて純粋なままだった。君の母上はとても放っておけなかったんだろうなあ。エルウェルでおとなしくしていればよかったものを」

「父がエルウェルにいた?」

 父は確かに騎士と言うより、学者向きの人物だった。
 当時、家計をもっとも圧迫していたのは、高価な書物だったと言う。

 しかし、リュイスは父があのエルウェルで学んだなど、一度も聞いたことがなかった。
 たとえ卒業できなくとも、エルウェルに入学できたと言うだけで、自慢に出来ることであるし、経歴に箔もつく。
 
それはこの目の前の義兄とて同じである。息子であるリュイスの耳にまったく入ってないと言うのは納得できる話ではない。

「君が知らないのは当たり前だ。エルウェルでの彼の記録は抹消されたからね」

「そんな、なぜ?」

「なぜって、彼は異端だったんだ。革新的を自認するエルウェルですらね。なにしろ、世界のありようそのものに疑念を差しはさんだんだから。もっとも、彼にしてみれば、単にたった一人の人間はすべてを背負う機構に無理を見て、不安を覚えただけに過ぎなかった。そして、計らずも彼の不安は息子の代に現実となってしまった。そうじゃないのか」

 エイクの問いかけにリュイスは苦い薬でも飲んだかのような顔をした。

 




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