一なる騎士
「祖母殿が目をかけていたというのは?」
「彼には、精霊使いの素養がありましたから。きちんと勉強していれば、かなりのものになっていたはずですよ。でも、彼の興味は別にあった」
(「血塗られた道を歩むもの」)
『一なる騎士』をそう断じたエイクの声が耳に蘇る。彼は『一なる騎士』についてもずいぶん詳しく知っていたようだった。そして、『王』についても。
「『王』と『騎士』、いや、世界の仕組みか?」
「ご名答。エイク殿は、入学前から貴方の父上に傾倒していた節があったそうです。当時、セイファータ公爵は、貴方のご両親をたびたび尋ねていた。エイク殿をつれていかれたこともあったのでしょう」
「しかし、父がエルウェルにいて、しかも女神の定めた世界の理に疑義を挟んだことがあったなど、信じられない」
「でしょうね。貴方は『一なる騎士』ですから」
「母は知っていたのだろうか?」
「わかりません。ただ、あなたの両親が出会われたのは、彼がエルウェルから放逐された後のはずです。世界の片翼を担う『一なる騎士』の母となる女性が、それを知っていてなお結婚するものでしょうか。周囲の反対すら乗り越えて」
「知らなかったと、そう願いたいが」
しかし、母は不思議な人であったのではないか。何もかもをも見通していたような。
知っていて、なおをも母が父を選んだと言うのなら、それはいったい何を意味するのだろうか。母もまた『大地』を支配する王と騎士との構図を容認していなかったと言うことだろうか。
リュイスには母の思い出はほとんどない。しかし、残された肖像画の母は美しくはあったが、同時に意志の強さを秘めていた。
たやすく運命の前に屈服しないほどに。父が世界を支配する女神の理を否定してみせたゆえに、あえて彼を選んだ、そんなことすらありそうだった。
「彼には、精霊使いの素養がありましたから。きちんと勉強していれば、かなりのものになっていたはずですよ。でも、彼の興味は別にあった」
(「血塗られた道を歩むもの」)
『一なる騎士』をそう断じたエイクの声が耳に蘇る。彼は『一なる騎士』についてもずいぶん詳しく知っていたようだった。そして、『王』についても。
「『王』と『騎士』、いや、世界の仕組みか?」
「ご名答。エイク殿は、入学前から貴方の父上に傾倒していた節があったそうです。当時、セイファータ公爵は、貴方のご両親をたびたび尋ねていた。エイク殿をつれていかれたこともあったのでしょう」
「しかし、父がエルウェルにいて、しかも女神の定めた世界の理に疑義を挟んだことがあったなど、信じられない」
「でしょうね。貴方は『一なる騎士』ですから」
「母は知っていたのだろうか?」
「わかりません。ただ、あなたの両親が出会われたのは、彼がエルウェルから放逐された後のはずです。世界の片翼を担う『一なる騎士』の母となる女性が、それを知っていてなお結婚するものでしょうか。周囲の反対すら乗り越えて」
「知らなかったと、そう願いたいが」
しかし、母は不思議な人であったのではないか。何もかもをも見通していたような。
知っていて、なおをも母が父を選んだと言うのなら、それはいったい何を意味するのだろうか。母もまた『大地』を支配する王と騎士との構図を容認していなかったと言うことだろうか。
リュイスには母の思い出はほとんどない。しかし、残された肖像画の母は美しくはあったが、同時に意志の強さを秘めていた。
たやすく運命の前に屈服しないほどに。父が世界を支配する女神の理を否定してみせたゆえに、あえて彼を選んだ、そんなことすらありそうだった。