一なる騎士
「あの王はおとなしく大地の剣を引渡しはしないだろう。それは、覚悟していた。しかし、義兄上に言われるまでは、さすがにこんなことは考えもしなかった。『大地の剣』に何かが起こる可能性など。だが、王が<気>の流れを放置しているだけでも、大地は弱っていくと言うのに、万が一王自身が剣を破壊しようとすれば、いったい何が起こるのかわかったものじゃない」

「そうですね、実際に剣が破壊できるものではないとしても、『大地』の支配者たる王が『大地の剣』を破壊しようと言うのならば、それは、すなわち『大地』を破壊しようとするも同然でしょう」

「ならば、なおのこと急がなくてはならない。万が一と言うこともある。王が、大地の剣に何かしようなどと思いつく前に、ことを片付けなければならない。そして、今度こそは、なにひとつ手落ちがあってはならないんだ。そのためには……」

 ふいにリュイスは言葉を切った。視線が窓越しの外に向けられる。立ち上がると、そのまま窓に近寄り、木枠に手をかける。

「だれかいるのですか」

「少し、外の空気を吸ってくる」

 怪訝げに問いかけるクレイドルにかまわずに、リュイスは窓を開け放つ。外の冷たい風が室内に吹き込んできた。まだ初秋とはいえ夜ともなれば外は冷える。しかし、彼はそのままベランダから続く庭へと歩み出ていく。

「リュイス?」

『一なる騎士』の尋常ならざる様子に、クレイドルはすぐさま後を追った。

 部屋に迎えた友人を放ったまま、確たる理由も告げずに外に出て行くような人物ではないはずである。

 しかし。

 彼の姿はどこにもなかった。



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