一なる騎士
また突き放したような返事が来るかと思ったが、そうではなかった。姫の幼い教師はこの話題に興味を抱いたようだった。
「世の中には預言者とか千里眼とか呼ばれる人たちがいる。彼らのうちの大部分は無意識のうちに精霊の声を聞いている場合が多いけれど、たまに、そうじゃない人もいる。彼らは<気>の流れから直接に情報を引き出しているといわれている。<気>の流れは世界中を巡っているから、遠い場所のことでもわかる。でも、<気>の流れを感じるだけのものならけっこういても、世界を読めるほどのものは滅多にいない。賢者エルウェルがまさにそうであったと言うけれど、彼は『天空』と呼ばれる異界の人間だったと言う説もあるし」
まるで立て板に水。
十二歳の少女がここまで博識であることに驚きながらも、サーナの気がかりは別のところにあった。
「それなら、姫様にもそんな力が?」
「え?」
アディリはサーナの言にセラスヴァティー姫を振りかえった。精霊文字の本に見入っている彼女は可愛らしくとも、ただの無邪気な子どもにしか見えない。
「さあ、そんなの、わたしにはわからない。でも……」
アディリは何とも複雑な表情をした。驚いているような、悲しんでいるような。
そして、小さくため息を落とした。
「今日の授業はもう終わりにする。お茶を淹れてくれる?」
「ええ」
くるりと背を向けたアディリにサーナは小さく微笑む。
彼女がサーナにお茶を頼んだのは、初めてのことだった。
「世の中には預言者とか千里眼とか呼ばれる人たちがいる。彼らのうちの大部分は無意識のうちに精霊の声を聞いている場合が多いけれど、たまに、そうじゃない人もいる。彼らは<気>の流れから直接に情報を引き出しているといわれている。<気>の流れは世界中を巡っているから、遠い場所のことでもわかる。でも、<気>の流れを感じるだけのものならけっこういても、世界を読めるほどのものは滅多にいない。賢者エルウェルがまさにそうであったと言うけれど、彼は『天空』と呼ばれる異界の人間だったと言う説もあるし」
まるで立て板に水。
十二歳の少女がここまで博識であることに驚きながらも、サーナの気がかりは別のところにあった。
「それなら、姫様にもそんな力が?」
「え?」
アディリはサーナの言にセラスヴァティー姫を振りかえった。精霊文字の本に見入っている彼女は可愛らしくとも、ただの無邪気な子どもにしか見えない。
「さあ、そんなの、わたしにはわからない。でも……」
アディリは何とも複雑な表情をした。驚いているような、悲しんでいるような。
そして、小さくため息を落とした。
「今日の授業はもう終わりにする。お茶を淹れてくれる?」
「ええ」
くるりと背を向けたアディリにサーナは小さく微笑む。
彼女がサーナにお茶を頼んだのは、初めてのことだった。