一なる騎士
『一なる騎士』の軍に参加したのは、何も職業軍人ばかりではなかった。噂を聞きつけた農民が鍬や鎌を手に参加してきている。近辺の村々だけからではない。はるか遠い辺境の地からやってきたものすらあるのだ。それは、まさしく豊穣をもたらさない王に対するやる方のない憤懣が膨れ上がっていると言うことを意味にしていた。今や単なる退位では、だれも満足どころか納得すらしないだろう。

「致し方ないことだ」

 リュイスは至極あっさりと答える。

「王としての責務を放棄したのだ。それ相応の報いを受けるのは当然だ」

「辛くはないのですか?」

 リュイスにはなぜクレイドルがそんなことを聞くのかわからなかった。道を誤った王を糾すのは『一なる騎士』として当たり前の役目。自分はその任を果たそうとしているだけだ。なのに、なぜそんな気遣わしげな顔をこの若い精霊使いの長は向けるのだろうか。

 確かに昔からクレイドルは何かと言うとリュイスのことを心配してくれていたが、この頃、いくらなんでも度が過ぎるような気がする。なにかあったのだろうか。

「なぜだ?」

「あの小さな姫君は悲しむでしょうに」

「姫……」

 ふと胸が痛む。金の髪と新緑の瞳の幼い姫君の面影がひどく遠くに思い浮かぶ。

 しかし。

(『お前は私の騎士』)

 甘く囁く声がある。

(『お前が選んだそのときより』)

 薄く微笑む、白くまばゆい存在。
 ずっと昔から側にあったもの。

(『私の力はお前の力。勤めを果たすがよい』)

 後になってリュイスは思う。
 どうしてあの頃、姫を忘れていられたのか、と。
 いや、忘れていたわけではない。ただ彼の守るべき主と王との関係が頭の中からすっぽりと抜け落ちてしまっていた。考えることすらできなかったのだ。

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