一なる騎士

(5)黒と白の騎士

　主力がようやく合流し、外はいまだ騒がしい。そんな中、リュイスの天幕では、精霊使いの長クレイドルと公爵の嫡子エイクを迎え、本格的な軍議に先立ち密やかな協議が行われていた。

「まあさ、こういう場合、おっとり取り囲んで降伏を待つってのが、常套手段というものだろう。いわゆる兵糧攻めってやつだな。だけど、我らが『一なる騎士』様はそんなに待てないって言うんだろう？」

「無論です」

「で、おまけに王都の民に被害を出したくはないって、そんな虫のいいことを言われてもなあ」

「無理は承知です」

「方法はないことはないんだけどねえ。リュイス君の主義には合わないかもね」

「かまいません」

「しかたがないなあ」

　殺風景なリュイスの天幕の中でエイクは一人、あいかわらずな派手というよりも奇矯なな出で立ちで浮いていた。何しろどこかの家の窓からでも引き剥がしてきたようなレースのカーテンを身体に巻きつけた上で、たっぷりなフリルのついた布で縛り付けたとしか見えない風体である。本人の弁では、レースやフリルで優雅にまとめたつもりらしい。

　いまだ実質的な戦闘は行われていないとはいえ、一応は軍陣の中であることなど、この男の念頭にはないのだろう。さすがに、自領にいたときのように毎日とっかえひっかえ出来るほど衣装は持って来てはいないようで、組み合わせで変化をつけているらしい。

　ときには道端で摘んだであろう草花で飾り立てている始末である。軍勢の中になぜ道化が混ざっているのかと、不思議に思うものも後をたたないほどだ。悪目立ちと言う面においては、彼の右に出るものはいない。

　しかし、確かに彼はある意味において有能ではあった。

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