一なる騎士
 王都を取り囲む石壁の扉のひとつがゆっくりと開く。城壁の向こうとこちら側の両方から、天を貫くような歓声とも怒声ともつかぬ声が巻き起こった。

 中から出てきたのは、一人の純白の騎士。人並みはずれた巨躯に纏うのは白い甲冑。肩から下げたマントもまた純白。

 迎えるのは漆黒の騎士。長身痩躯に纏うのは黒い甲冑にこれまた黒きマント。肩の鎖飾りのみが金の光を放つ。『一なる騎士』の正式武装である。

 対照的な装いの騎士たち。

 白き騎士はアスタート。近衛騎士団長に上り詰め、いまや『王』を守る者。

 黒き騎士はリュイス。大地の女神の代弁者として道を誤った『王』を討つ者。

 ついに決着をつける時が来たのだ。

 王の最後の砦とでもいえる近衛騎士団と『一なる騎士』軍との戦いに。

 それは互いの首領の決闘と言う形で行われる。

『一なる騎士』リュイスと近衛騎士団長アスタートの間で。

 しかし、それはまた単なる決闘ではない。

 どちらかが降参するか、あるいはどちらかの命が尽きるまで彼らはどちらも退かないだろう。死闘がたやすく予想された。

「ほんとに出て来たようですね」

「まあね、アスタートは清廉潔白な騎士の見本みたいなやつだが、血気にはやるほど単純でもない。しかし、他に選択肢はないからね。決闘の申し出に応じないわけにもいかないだろ。兵の数に圧倒的に差があるんだ、立てこもったところで兵糧攻めをされれば終りだしな。これで決着がつけば、王都の民もこれ以上巻き込まずにすむわけだ。勝てば士気はとうぜん上がるし、相打ちでも『一なる騎士』を始末できれば王は守れる。負ければそこで終わりだが、あれだけの武勇の持ち主だ、そこそこの自信はあるだろ。奴にとっても悪くない賭けだ」

 遠巻きに見守る軍勢の中に、エイクとクレイドルはいた。
 傍から見ればのほほんと見物しているようにも見える。実際、今の彼らの出来ることは見守ることしかない。

「リュイスは、勝てるでしょうか」

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