一なる騎士
「勝てるとか負けるとかじゃなく、勝たなくてはならないって、あの『一なる騎士』様は言っていたな。なあ、あれはいったい何に取り憑かれたんだ。あの変わりようは尋常じゃないだろ。暗殺を匂わしてみたら、騎士道などなんだと奇麗事を並べるかと思えば、正面から討ち果たさなくては意味がないと来た。確かにアスタートが暗殺されれば、逆に近衛騎士団の士気を煽りかねないけどさ。そんな冷静な判断を純真なリュイス君ができるとは思わなかったな」

 エイクは皮肉げに首をかしげる。
 
 今日の彼の装いは、茶色の皮鎧。腰には剣を履いている。柔らかそうな革に優美な花柄の型押しが革鎧と剣の革鞘にまであったりする代物で、とても実戦向きとも見えなかったが、逆に遠目には精霊使いの長として正装をして虹色の光沢のあるローブを着込んだクレイドルのほうが軍勢の中では浮いている始末である。

 いつもがいつもであるだけにどうにも不気味ではあるが、クレイドルもあえて突っ込まない。触らぬ神に祟りなしである。

「『一なる騎士』とは本来、大地の王を守るもの。しかし、同時に『王』の唯一の断罪者でもある。僕が考えていた以上に『一なる騎士』は人とは異なる部分を抱えた存在であるのかもしれない。今や彼は女神のしもべと化しているような気がします」

「今のリュイス君を動かしているのは大地の意志だとでも?」

「ええ、しかし、大地の女神は数多の顔を持つ。今の彼にもっとも大きな影響を与えているのは、戦女神ナクシャーなのでしょう」

 どこか変わってしまったリュイスがナクシャーの名を呼んだとき、クレイドルは戦慄にも似たものを感じたのだ。一瞬だが、確かに何か尋常ではない力の流れが生じた。彼はナクシャーに支配されているのか、いやあるいはその逆なのか。

「非情な戦乱の女神か、純なリュイス君には似合わないだろうに」

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