一なる騎士
「セラスヴァティー姫? 一度会ったことはあるけど。まあ確かに尋常じゃない子だとは思うけど、しょせんは単なる子どもだろう。女神の意志とやらに対抗できるとも思えないなあ」

「あの姫は単なる子どもなどではない。そう、何と言うか女神のうつし身。女神の力と意志の一部を受け継いで生まれてきたもの。女神の数多の顔のひとつ、とでも言えばいいのでしょうか」

「女神に対抗できるのは女神だけ、ね。しかし、あの姫はそんな大層なものなのか」

「でなければ、いくら『精霊の愛し子』とはいえ、あそこまで精霊が動きはしなかったでしょう」

 あの時、精霊との同調を押さえるための薬草茶を、姫は飲まされ眠っていたと言うのに、精霊たちは姫に危害が及ぶこと許さず、暗殺者を容赦なく抹殺した。本来気まぐれな精霊たちが命じられたわけでもなく、そこまでのことをすることは前例がない。

「暗殺者の一件か。確かにあれは、普通じゃないとはおもうけど。しかし、今更なんでそんなものが生まれてきたとか言うわけ?」

「それこそ女神が望んだからでしょう。人として生まれてくることを」

「ふうん、それはちょっとおもしろいかもな」

 エイクは考え込むように腕組みをした。灰色の瞳に思慮深げな光が浮かぶ。

「エイク殿?」

「いや、考えてみれば、この騒動の発端はあの姫が生まれたことだ。王を惑乱させたばかりか、『一なる騎士』をも惑わして、今じゃこんな事態だ。女神様はいったい何をしに生まれてきたと言うんだろうな?」



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