一なる騎士
 アスタートは再び猛然と打ち込んできた。
 リュイスは剣で受け止め、弾き返す。

 刀身同士がぶつかり火花を上げた。
 耳障りな金属音が響く。

 しかし、白き騎士は。

 今や『大地の王』の唯一の騎士は、攻撃の手を緩めない。

 即座に剣を引いては打ち込む。
 何度も何度も。

(強い)

 リュイスはいつしか防戦一方に追い込まれていた。
 素早く力のある斬撃。単調と見せかけて微妙に間合いを変えてくる。

 しかも的確に急所を狙ってくる。
 ひとときたりとも気を緩めれば、命取りになるのはあきらかだ。
 反撃に転じる機がなかなかつかめない。

 リュイスとて騎士として剣技に劣っているわけではない。同世代の中なら一、二を争うだろう。とは言え相手は百戦錬磨のアスタートである。技術だけではなく経験の差も大きい。勝つのは困難だと言っていい。

 実際、アスタートとは何度か手合わせをしたことがあるが、リュイスが練兵場で勝てたのは彼の油断をなんとか突けた、ただ一度きりだった。

 しかし、これは訓練などではない、文字通りに命をかけた真剣勝負だ。
 今度ばかりは老練な戦士であるアスタートに油断があろうはずがない。

 だが、それでも、リュイスは負ける気などさらさらなかった。


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