一なる騎士
 今やこの決闘にはすべてがかかっている。

『大地』の民の未来。
 そして、『大地』そのものの命運すらが。

 決して負けるわけにいかない以上、勝たねばならぬ。
 たとえ、何を犠牲にしようとも己の身を魂すらも引き換えにしようと。

 いまだ幼き真の主のためにも。

(女神ナクシャーよ。我に力を)

 強い気配を感じた。

 いまや馴染みの感覚。
 白く輝くまばゆい存在。

 ずっと昔から側にあったもの。

 剣を持つ腕に重ねられる、たおやかな手の感触が生々しい。
 今までになく明瞭な声が間近に聞えた。

(『私の力はお前の力。勤めを果たすがよい』)

 力が満ちる。

 いまだかつてない力。

 怒りも憎しみも迷いも怖れも感じない。
 惑わされることもない。

 あるのは心地よい昂揚感。
 明晰でよどみのない思考。

 目前に迫った刃を、力づくで押しやった。


< 160 / 212 >

この作品をシェア

pagetop