一なる騎士
王は、黒にも見える深緑の瞳にぎらぎらと異様な光を浮かべ、目前に片膝をつく騎士を睥睨していた。
「……に敗れました。近衛騎士団は瓦解し……」
「ふん、頼りにならぬやつめ」
報告に上がった騎士は、王の暴言に一瞬ぴくりと肩を揺らしたが、淡々と報告を続ける。
「王都に入った以上、彼らは陛下の御許を目差すでしょう。騎士団は既に崩壊し、ほとんどが『一なる騎士』のもとに投降しました。残ったわずかな者たちは王城の守備につかせましたが、多勢に無勢、彼らの軍勢が王城に入ってくるのも時間の問題です」
「どいつもこいつも役立たずめ」
「どうか陛下、ご退去を。体制を立て直し、今一度『一なる騎士』と対決する機会を待たれるのがよいかと」
彼は万が一のためにアスタートに事後を託さていた。しかし、実際万が一のことが起こるなどとは少しも思ってはいなかった。あのアスタートが『一なる騎士』とはいえまだ年若い騎士に敗れるなどと想像だにしなかった。
彼は王などよりもアスタートその人に対する崇拝者の一人だった。彼に頼まれていなければ、他の同僚たちのようにとっくに王など見捨てていただろう。
だのに、王に忠誠を尽くし、死んで行ったアスタートを当の王は無能者呼ばわりである。声を平静に保つには騎士として培われた自制心のすべてが必要だった。
「私に逃げよと言うか」
「では、退位をされるというのですか?」
幾分かの期待をこめてたずねる。自ら退位するというのなら、この王の命までとるような無体なことまでは起こらないだろう。少なくとも王の命を守ると言うアスタートの遺志を継ぐことができる。
「馬鹿を言うな。私は『大地の王』だ。なぜ退位などせねばならぬ」
王には何を言っても届かない。けっきょく彼はそれを確認しただけだったのだ。
ならばもうあとは彼はすべきことをするしかない。
たとえ無駄だとはいえ、王を『一なる騎士』から守ること。
アスタート将軍の果たせなかった遺志を継ぐこと。
「差し出たことを申し上げました」
彼は僅かに首を横にふり、頭を下げた。
「……に敗れました。近衛騎士団は瓦解し……」
「ふん、頼りにならぬやつめ」
報告に上がった騎士は、王の暴言に一瞬ぴくりと肩を揺らしたが、淡々と報告を続ける。
「王都に入った以上、彼らは陛下の御許を目差すでしょう。騎士団は既に崩壊し、ほとんどが『一なる騎士』のもとに投降しました。残ったわずかな者たちは王城の守備につかせましたが、多勢に無勢、彼らの軍勢が王城に入ってくるのも時間の問題です」
「どいつもこいつも役立たずめ」
「どうか陛下、ご退去を。体制を立て直し、今一度『一なる騎士』と対決する機会を待たれるのがよいかと」
彼は万が一のためにアスタートに事後を託さていた。しかし、実際万が一のことが起こるなどとは少しも思ってはいなかった。あのアスタートが『一なる騎士』とはいえまだ年若い騎士に敗れるなどと想像だにしなかった。
彼は王などよりもアスタートその人に対する崇拝者の一人だった。彼に頼まれていなければ、他の同僚たちのようにとっくに王など見捨てていただろう。
だのに、王に忠誠を尽くし、死んで行ったアスタートを当の王は無能者呼ばわりである。声を平静に保つには騎士として培われた自制心のすべてが必要だった。
「私に逃げよと言うか」
「では、退位をされるというのですか?」
幾分かの期待をこめてたずねる。自ら退位するというのなら、この王の命までとるような無体なことまでは起こらないだろう。少なくとも王の命を守ると言うアスタートの遺志を継ぐことができる。
「馬鹿を言うな。私は『大地の王』だ。なぜ退位などせねばならぬ」
王には何を言っても届かない。けっきょく彼はそれを確認しただけだったのだ。
ならばもうあとは彼はすべきことをするしかない。
たとえ無駄だとはいえ、王を『一なる騎士』から守ること。
アスタート将軍の果たせなかった遺志を継ぐこと。
「差し出たことを申し上げました」
彼は僅かに首を横にふり、頭を下げた。