一なる騎士
「はっ」

 背を向けて退出しかけた騎士がもう一度振り向く。もの問いたげな眼差しが王妃に向けられた。騎士の意を悟った彼女はかすかに首を横に振ると、下の王子を抱いた乳母に命じた。

「メルシャ、お前も探しておいで」

「ですが、王妃様」

 まだ若い乳母は不安げなまなざしを王妃に向ける。彼女の真意を探るように。

「私は今陛下のお側を離れるわけにはいかないのです。頼みますよ。さ、王子をこれに」

「は、はい」

 まだほんの赤子の王子を王妃に預けると、彼女は深々と頭を下げる。
 彼女もまたこの別れがほんの束の間のものではないことに気づいていた。

「どうかご無事で」

「大げさなことを言うものではありませんよ」

 弱弱しくも微笑えんでみせる王妃を痛ましげに見やりながらも、乳母は騎士の後を追って歩き始める。名残惜しげに何度も何度も振り返って。

 しかし、王はそんな彼らに頓着などしない。

「何をしておる。早くしろ」

 らんらんと陰鬱な光を帯びた目でさらにせきたてる。

「あれはここにおらねばならぬのだ」

 どこかおぼつかなげに『大地の剣』を抱きなおす。まるでそこから力を得ようとするように。

「私のもとに」

 ふりしぼるように漏れた言葉にはっとして王妃は王を見やる。それはまるで救いを求めているかのように聞えた。
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