一なる騎士
 彼女たちの住まう『封の館』には、いまや精霊使いたちの出入りはないが、たまに食料品や日用品を届けてくれるものたちの出入りはある。

 今朝方、いつもは妙に寡黙な彼らは幾分興奮気味に語った、『一なる騎士』の神聖軍がついに王都に入ったと、決着は間近だと。

 それを聞いたサーナの心中は複雑だった。

 だれが何と言おうが、『大地の王』はセラスヴァティー姫の父君なのだ。
 姫を真の主を仰ぐリュイスがその父親を断罪して平気なはずはないのだ。
 なのに、王都ははるか遠い。

(けっきょく私はリュイス様の役には立てなかったのかしら)

 いまだ幼きセラスヴァティー姫には自分が必要だと、自ら望んで王都を離れ、ここ精霊都市ヴォルテに来たはずである。

 自分でも今さらだと思うが、やはりどうしても思ってしまう。
 彼が一番つらいであろう時に、側にいられなかった、と。

 胸の奥に重くのしかかるような後悔にふと落とした視線の先には、盆の上に乗せた三組の茶器とお茶菓子があった。

(お茶が冷めてしまうわ)

 軽く苦笑する。どんなに思ってみてもどうにもならない。今はここで自分にできることをするしかないのだ。

 気を取り直して、ふたたびノブに手をかけようとしたときだった。

「あっ」

 その瞬間、サーナには何かわからないが、強い気配が背後から前の扉へと通り過ぎていった。

「そんな、セス、だめっ」

 部屋の中から、アディリの緊迫した叫びが聞こえた。

「姫様?」

 異変を察して、サーナはあわてて扉を開いた。
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