一なる騎士
「サーナ、君の心意気は買うけれど、君に傷一つでもつけたら、リュイスになんて言って詫びたらいいものか見当もつかない。とにかくすべてが終るまでここでじっとしているんだ。ここなら多少は安全だ」

「リュイス様は今どうしていらっしゃるんですか?」

「王との決着の真っ最中というところだろうね。ちょっ、立つんじゃない」

 肩を無理やり押さえられ、立ち上がれないようにされる。サーナは恨めしげにクレイドルを睨む。

「どうしてですか?」

 はやくセラスヴァティー姫を見つけて安全な場所でお守りしなくてはならない。万が一でも『大地の王』と『一なる騎士』の対決に巻き込むようなことがあってはならないと言うのに。

「どうしてって、自分で気づいていないのか。君、足を怪我しているじゃないか」

「え? あ」

 指摘されて足にずきずきする痛みを感じた。取り落とした茶器の破片を底の薄い室内履きで踏みでもしたのだろう。足から血が流れ出ていた。

「とにかく手当てのものを寄越すよ。姫君のことは僕に任せて。だいじょうぶだ。すぐ連れ戻すから」

 立ち上がりかけてクレイドルは、眠ったままのアディリをサーナの腕の中に押し付ける。

「だから、それまでこの子を看ていてくれ、頼んだよ」

「ク、クレイドル様」

 情けない声を上げるサーナにかまわずクレイドルは天幕を出ていく。

 彼はサーナをおとなしくさせるためには面倒を見るものをあてがっておけばいいことをよく心得えているようだった。

 昏々と眠るアディリを放り出して行くなんて、不人情な真似はサーナには確かにできない。

 けれど、それでも愚痴だとわかっていて口に出してしまう。

「ほんとに、私って肝心のときに役に立たない」

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