一なる騎士
 王宮内では巧みに配置された残存兵による奇襲があった。
 彼らは狙うべき相手を心得ていた。
 今は亡きアスタートの遺志を受け継ぐものがいるのだろう。

『一なる騎士』たるリュイスの首を確実に狙ってきた。
 けれどまたそれは『一なる騎士』の軍とて承知の上の事だった。

 リュイス自らが手を下す間もない。兵たちの士気は上がっていた。彼の周りを固める精鋭達もまた同じ。切りかかった近衛騎士達はたちまちの内に返り討ちにされた。

 王の間に向かう回廊が血塗られて行く。

 しかし、リュイスは足を止めなかった。

 討ち取られた遺体が、興奮した兵達に必要以上に切り刻まれようが、一顧だにしない。

 ただ黙々と歩を進める。

 彼が目指すのはただ一箇所。 

 道をたがえた『大地の王』の元である。

 そうして、彼は足を踏み入れた。

 真白き王の間に。

 大地の王の栄華を体現したともいえる場所。

 今やそこに待つのは王とその家族のみ。

『大地の剣』を胸に抱え、王の正装をしたヴィドーラと、側には王妃と王子たち。

 酒色に溺れ、かつての精悍さの面影を完全に失った哀れな王。

 道を失った王。

 リュイスはそのまま王のもとに歩みを進める、何のためらいも無く。

 彼に続いてきた貴族たちが広間半ばで足を止めたのにもかかわらず。

 靴音も高く、まっすぐに進み出る。

 背後の貴族たちが固唾を飲んで見守る中、王の真正面に対峙した彼が口を開いた。

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