一なる騎士
「あの子たち?」

 聞きとがめて尋ねると、セスは顔を上げた。
 希有な宝玉のような緑の瞳。それが悲しげに潤んでいた。

「うん、わたしのともだち」

「姫様の」

 サーナは唇をかむ。彼女は、それがなんだか知っていた。
 彼女の大事な姫君を苦しめるものの正体を。
 けれど、わかっていてもサーナにはどうしてやることもできない。

(せめて、リュイス様がおられれば)

「あの子たち、苦しんでる。悲しんでる。痛がっている。だから、わたしも食べられない」

「姫様」

 たまらず、サーナは駆け寄ると、セスを腕の中に抱き取る。

「お願いですから、召し上がって下さい。もう精霊たちの声を聞かないで」

 そう、精霊。
 幼い姫君を苦しめているのは精霊。
 常人の目には見えぬ、力ある存在。

 通常は幾ばくかの素質と、訓練によって人は精霊を操れるようになる。
 彼らの声を聞き、同調することによって力を引き出す。
 しかし、人の中には生まれながらに精霊に愛され、かれらの加護を受ける者がいる。

 いわば、生まれながらの精霊使い。

 類い希なこの姫君は、まさしくその生まれながらしての精霊使いだった。
 声を聞くだけでなく、その姿すら見ることのできるほど、精霊に愛された娘。
 同調が強ければ強いほど、精霊たちから引き出させる力も大きくなる。

 けれど、それはまた諸刃の剣だった。


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