一なる騎士
(4)会談
「まだ決心はつかぬのか」
テーブルを挟んで目前に座る初老の男が、苛ただしげにリュイスに問う。
「もうあの王は駄目だ。いくら諫言してみたところで、ああ酒浸りでは、まともに話もできん。下手をすれば投獄されたうえに、斬首だ」
リュイスは無言で、鋭い眼差しを投げかけた。
セイファータ公爵。
政治の実権を握る宰相を勤め、貴族の中でもっとも高い地位にいる男。
リュイスの姉の舅に当たる。
痩せこけた頬と、小ずるそうな灰色の瞳がどこかネズミを思い起こさせる。
こつこつとテーブルの縁を苛ただしそうに叩いていた。
何一つ、気に入らない男だった。
けれど、こんな男に頼らなければならない、自分が一番腹立たしい。
何とか、感情を抑えた低い声を絞り出す。
「いろいろと古い文献を調べました」
公爵は女のように細い眉を上げ、不審げに問う。
「何の話だ」
リュイスは淡々と告げる。事実だけを。
「いまだ『一なる騎士』で、実際にその王を弑したものはいない」
どんと、ひとつ公爵はテーブルをたたき、その上に散らばった書類の山を示す。
声に激した色が混じる。
「今更、やめるというのか」
テーブルの上にばらまかれているのは、ここ数年の収穫の報告書。
不順な天候や虫害で、四年ほど前に比べれば、収穫が半分ほどに落ちている。各地の領主の収穫隠しがあるとしても無視できない数字だ。そして、実際、公爵の自領でも同じことが起きていた。
「各地の収穫の劣化や天変地異を放っておくのか」
きれいごとを。
リュイスは苦々しく思う。
テーブルを挟んで目前に座る初老の男が、苛ただしげにリュイスに問う。
「もうあの王は駄目だ。いくら諫言してみたところで、ああ酒浸りでは、まともに話もできん。下手をすれば投獄されたうえに、斬首だ」
リュイスは無言で、鋭い眼差しを投げかけた。
セイファータ公爵。
政治の実権を握る宰相を勤め、貴族の中でもっとも高い地位にいる男。
リュイスの姉の舅に当たる。
痩せこけた頬と、小ずるそうな灰色の瞳がどこかネズミを思い起こさせる。
こつこつとテーブルの縁を苛ただしそうに叩いていた。
何一つ、気に入らない男だった。
けれど、こんな男に頼らなければならない、自分が一番腹立たしい。
何とか、感情を抑えた低い声を絞り出す。
「いろいろと古い文献を調べました」
公爵は女のように細い眉を上げ、不審げに問う。
「何の話だ」
リュイスは淡々と告げる。事実だけを。
「いまだ『一なる騎士』で、実際にその王を弑したものはいない」
どんと、ひとつ公爵はテーブルをたたき、その上に散らばった書類の山を示す。
声に激した色が混じる。
「今更、やめるというのか」
テーブルの上にばらまかれているのは、ここ数年の収穫の報告書。
不順な天候や虫害で、四年ほど前に比べれば、収穫が半分ほどに落ちている。各地の領主の収穫隠しがあるとしても無視できない数字だ。そして、実際、公爵の自領でも同じことが起きていた。
「各地の収穫の劣化や天変地異を放っておくのか」
きれいごとを。
リュイスは苦々しく思う。