一なる騎士
『一なる騎士』の継承は、通常長子相続を旨とする『大地』にあっては、変則的に見える。それはつねに母方の血筋によってなされるからだ。
『一なる騎士』となるのは、母の息子。その継承者は、姉妹の裔(すえ)。
すなわち、リュイスの姉は次代の『一なる騎士』の母となるもの。
そして、公爵は目論見どおり、次の『一なる騎士』の祖父となった。
だが、何もかも、この男の好きにはさせない。
させるわけにはいかない。
「時と、そして、次代の王は私が決めます。それが、『一なる騎士』としての私の勤めです」
椅子を引いて、リュイスは立ち上がり、鋭い一瞥を公爵に投げつける。
「たとえ、貴方といえど、邪魔はさせない」
部屋から出ていく『一なる騎士』の後ろ姿を見送りながら、公爵はぽつりとつぶやいた。
「邪魔だな」
次代の『一なる騎士』は彼の手の中にある。
けれど、まだ『一なる騎士』を継承させるにはいかにも幼すぎる。
だとすれば。
「あの姫の方か」
幼くとも、傀儡(かいらい)にするにはあまりに類い希すぎる姫。
ともすれば、この自分ですら、あの姫に取り込まれそうになる。
王が実の子とはいえ、畏れるのも道理。
『一なる騎士』があそこまで固執するのも道理。
どんな優れた教育を施されていても、上の王子は凡庸に過ぎない。
下の王子は幼すぎて海のものとも山のものともつかない。
そして、何よりも『一なる騎士』が聖別したとあれば、王家の血を引くもの、初代の『大地の王』の裔である必要などないのだ。そう、この自分でも。
「慎重にせねばならぬな」
細められた灰色の瞳には、冷たい光が浮かんでいた。
『一なる騎士』となるのは、母の息子。その継承者は、姉妹の裔(すえ)。
すなわち、リュイスの姉は次代の『一なる騎士』の母となるもの。
そして、公爵は目論見どおり、次の『一なる騎士』の祖父となった。
だが、何もかも、この男の好きにはさせない。
させるわけにはいかない。
「時と、そして、次代の王は私が決めます。それが、『一なる騎士』としての私の勤めです」
椅子を引いて、リュイスは立ち上がり、鋭い一瞥を公爵に投げつける。
「たとえ、貴方といえど、邪魔はさせない」
部屋から出ていく『一なる騎士』の後ろ姿を見送りながら、公爵はぽつりとつぶやいた。
「邪魔だな」
次代の『一なる騎士』は彼の手の中にある。
けれど、まだ『一なる騎士』を継承させるにはいかにも幼すぎる。
だとすれば。
「あの姫の方か」
幼くとも、傀儡(かいらい)にするにはあまりに類い希すぎる姫。
ともすれば、この自分ですら、あの姫に取り込まれそうになる。
王が実の子とはいえ、畏れるのも道理。
『一なる騎士』があそこまで固執するのも道理。
どんな優れた教育を施されていても、上の王子は凡庸に過ぎない。
下の王子は幼すぎて海のものとも山のものともつかない。
そして、何よりも『一なる騎士』が聖別したとあれば、王家の血を引くもの、初代の『大地の王』の裔である必要などないのだ。そう、この自分でも。
「慎重にせねばならぬな」
細められた灰色の瞳には、冷たい光が浮かんでいた。