一なる騎士
(5)重過ぎる荷
夜中過ぎ、宮中に割り当てられた自室に戻ったリュイスは、深々とため息をついた。
王の私室の隣に設けられた、代々の『一なる騎士』が使っていた部屋ではない。
ごく質素でなんの飾り気のなく、ベッドと物入れがあるだけの狭苦しい部屋だった。
と。
「リュイス」
かけられた声に振りむくが、だれもいない。
いるはずもない。
「ここです」
ふいにリュイスの眼前に小さな姿が落ちてきた。とっさに受け止めようと、手を伸ばすと、それは彼の手のひらに着地した。
「しばらく会わないうちにずいぶん縮んだものだな、長殿」
手のひらに丁度載るほどの小さな姿の精霊使いの長に、動じるでなくリュイスは話しかけた。
「これは影ですよ」
二年ほど前に精霊使いの長は代替わりしていた。先の長は亡くなり、跡を継いだのは彼女の孫息子。ふわふわとした赤茶色の髪に明るい青い瞳。顔立ちは亡き祖母に似たのか、男でありながら、どこか愛らしい。体つきも華奢で、年もリュイスとほぼ同じなはずだが、どう見ても十代にしか見えない。
「わかってる。よく宮廷に影を飛ばせたな」
精霊たちの力を借りて彼は、自分の姿をリュイスの前に投射してきているのだ。
「実体が来るわけじゃないので。そう言って精霊たちをごまかしたんです。さすがに王のお側までは近寄れませんけどね」
精霊使いは王宮に出入り禁止になっている。
ごまかすなどと、この若き精霊使いの長は軽く言うが、それは並大抵のことではない。もともと精霊は、精霊使いの命より、王命を重んじる。それを直接ではないとはいえ曲げさせるのだ。若くして精霊使いたちの長となった彼の能力の高さを伺わせる。
王の私室の隣に設けられた、代々の『一なる騎士』が使っていた部屋ではない。
ごく質素でなんの飾り気のなく、ベッドと物入れがあるだけの狭苦しい部屋だった。
と。
「リュイス」
かけられた声に振りむくが、だれもいない。
いるはずもない。
「ここです」
ふいにリュイスの眼前に小さな姿が落ちてきた。とっさに受け止めようと、手を伸ばすと、それは彼の手のひらに着地した。
「しばらく会わないうちにずいぶん縮んだものだな、長殿」
手のひらに丁度載るほどの小さな姿の精霊使いの長に、動じるでなくリュイスは話しかけた。
「これは影ですよ」
二年ほど前に精霊使いの長は代替わりしていた。先の長は亡くなり、跡を継いだのは彼女の孫息子。ふわふわとした赤茶色の髪に明るい青い瞳。顔立ちは亡き祖母に似たのか、男でありながら、どこか愛らしい。体つきも華奢で、年もリュイスとほぼ同じなはずだが、どう見ても十代にしか見えない。
「わかってる。よく宮廷に影を飛ばせたな」
精霊たちの力を借りて彼は、自分の姿をリュイスの前に投射してきているのだ。
「実体が来るわけじゃないので。そう言って精霊たちをごまかしたんです。さすがに王のお側までは近寄れませんけどね」
精霊使いは王宮に出入り禁止になっている。
ごまかすなどと、この若き精霊使いの長は軽く言うが、それは並大抵のことではない。もともと精霊は、精霊使いの命より、王命を重んじる。それを直接ではないとはいえ曲げさせるのだ。若くして精霊使いたちの長となった彼の能力の高さを伺わせる。