一なる騎士
 リュイスはわずかに口元をゆがめた。

「私のことはどうでもいいさ。姫君に恨まれるかも知れないが。それはいい。だが、一度、王とはじっくりと話をしてみようと思う。けれど、決裂するようなことなれば」

「決行というわけですね」

「時間はあまりないのだろう?」

「ええ。姫君のこともそうですが。『大地』にとってももう限界が近づいてきています。王が大地に流れる<気>を放置しているからです。いえ、今ではあの方の感情の乱れが<気>の乱れさえ呼んでいます。『大地の王』は<気>の流れを制御し、『大地』を豊穣に導くもの。けれど、それは、人一人の身には重すぎる荷なのかもしれない。この頃、そんなふうに思えてならないのです」

「そうだな」

 ただ一人では背負いきれぬ荷。

『一なる騎士』は、もともとその荷をわかちあう者のはずなのに、あの王はそれを拒否した。

 すべての間違いはそこからはじまったのかもしれない。

 あるいは、リュイスが現王を見放したときから、か。

 もしもまだやりなおせるのなら。

「今度こそは全力でぶつかってみるさ」

 リュイスとて、今まで何もしなかったわけではない。
 幾たびか王と話をしようと試みたのだ。
 しかし、いつも話をしようとしても、近習のものたちに阻まれるか、王自身の頑なな拒絶にあうだけだった。

 けれど、今度ばかりは退く気はない。
 貴族たちも煮詰まっている。

< 33 / 212 >

この作品をシェア

pagetop