一なる騎士
(6)アスタート
姫を外に出すために、細かい打ち合わせをしていると、ふいに精霊使いの長は扉に目を向けた。
「誰か来ますよ」
「こんな時間にか?」
「あれは、アスタート卿? 僕は消えます。見つかると厄介だ」
リュイスの手の上から、精霊使いの長の姿が消えたとたん、扉を叩く音がした。
「どうぞ」
リュイスが応えると、扉が開かれた。壮年の、けれど人並みはずれた巨体の男が、姿をあらわす。ジアス・アスタート。王城の警備隊長を勤める男である。
「遅くにすまない。まだ起きていたか」
声音には、妙に疲れた色が混じっていた。
毛筋一つ乱れもない髪、鋭い目線。いつもの彼なのに、普段の精彩が感じられない。
「こんな時間に、なにかありましたか」
中に招き入れながらも、リュイスは慎重に尋ねる。
この男は、また王の一番の崇拝者でもあるのだ。リュイスが現王を『大地の王』の座から追うことになれば、最大の障害ともなる男である。
「ここには何もなくて、ろくなもてなしも……」
「いや、いい」
リュイスの言葉を遮ると、彼は背後の扉をしっかりと閉め、直立不動の姿勢をとった。つられてリュイスも姿勢を正す。
「『一なる騎士』としての卿に話しておかなければならないことがある」
「それはいったい……」
「今日の夕、王が自害を計られた」
「誰か来ますよ」
「こんな時間にか?」
「あれは、アスタート卿? 僕は消えます。見つかると厄介だ」
リュイスの手の上から、精霊使いの長の姿が消えたとたん、扉を叩く音がした。
「どうぞ」
リュイスが応えると、扉が開かれた。壮年の、けれど人並みはずれた巨体の男が、姿をあらわす。ジアス・アスタート。王城の警備隊長を勤める男である。
「遅くにすまない。まだ起きていたか」
声音には、妙に疲れた色が混じっていた。
毛筋一つ乱れもない髪、鋭い目線。いつもの彼なのに、普段の精彩が感じられない。
「こんな時間に、なにかありましたか」
中に招き入れながらも、リュイスは慎重に尋ねる。
この男は、また王の一番の崇拝者でもあるのだ。リュイスが現王を『大地の王』の座から追うことになれば、最大の障害ともなる男である。
「ここには何もなくて、ろくなもてなしも……」
「いや、いい」
リュイスの言葉を遮ると、彼は背後の扉をしっかりと閉め、直立不動の姿勢をとった。つられてリュイスも姿勢を正す。
「『一なる騎士』としての卿に話しておかなければならないことがある」
「それはいったい……」
「今日の夕、王が自害を計られた」