一なる騎士
 精霊使いたちから調達した薬草が、裏目に出てしまった。
 姫にちゃんとした意識があれば、少しは精霊たちの暴走をとめられただろうに。

「そうだな。けっきょく、姫君のためにも、いい機会になりそうだ。一刻も早く、精霊使いとしての訓練を受けていただかねば。姫君に苦難が及ぶたびに、王宮が燃え上がってしまうのでは、さすがにかなわない。計画通り、明日の夜明け前には、出発していただこう」

 リュイスは、はっと黒い瞳を見開いた。
 もともと体調の悪い姫はともかく、侍女のサーナはあんなことのあったばかりなのだ。いつもしっかりとした彼女が酷い取り乱しようだった。怪我はなかったとはいえ昨日の今日で出発できるような精神状態とは、とても思えない。

「しかし……」

 異議を唱えかけるリュイスを、アスタートは片手をあげて制した。

「侍女のことなら心配はいらん。あれは、ああ見えて肝のすわった娘だ。明日にはもう平静に戻るだろう。私の従妹だからな」

「え?」

 リュイスはおもわず目を瞠った。
 意外なことだった。
 たおやかで華奢なサーナと、この人並みはずれた偉丈夫とに、血縁関係があるようにはとても見えない。

「なんだ、知らなかったのか」

 アスタートの薄青い瞳に、悪戯ぽい光が浮かび上がる。
 いかつい顔が少年めいてみえる。
 が、それも一瞬。
 もとの峻厳な顔に戻る。

「王には、姫は生死不明と伝えてある」


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