一なる騎士
 夜半を過ぎていた。
 王はいつものように泥酔していた。
 が、姫を襲った災難を伝えると、王は一気に正気に返ったようだった。

 そして、顔色を変えた。
 あの姫なら、その程度のことで命を落とすはずはない。必ず探し出すように、きっぱりと命じられた。

 何かと冷たくあたられても、やはり血をわけた我が子が心配でないはずがないのだ。
 姫の無事を伝えられないことが、どれほど心苦しかったことか。

 しかし、今はいたしかたがない。

 王の姫に対する奇妙なこだわりが、そう簡単に消えるわけもない。
 姫と侍女の姿を見た部下には口止めをした。
 幸い、あの騒動の中だ。そう多くはない。

 しかし、もうひとつ、気になることもあった。
 姫に刺客を送ったもののこと。

「しばらくは時間が稼げるだろう。暗殺を指示したものにもな」

 姫の生死が不明であれば、次の暗殺者を送りようがないはずだ。

「許さない」

 振り絞るような声が、リュイスの唇から漏れた。
 膝の上におかれた手が、ぐっと握られる。
 黒い瞳に剣呑な色が浮かび上がった。

「心あたりがあるのか」

 リュイスがアスタートを見あげる。
 ためらったのは、一瞬だった。
 言葉少なに否定する。

「いえ」

「そうか」

(こんなに顔色が読まれやすくては、陰謀には向かいないな)

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