一なる騎士
「苦労をかけます、サーナ」

「いいえ、私は姫様のお世話ができて、こんなに幸せなことはありません。それに、私は……」

 ふいに視線を側のリュイスに泳がせた挙げ句、サーナは頬を赤くしてうつむいた。
 それは、なにより、彼女の想いを雄弁に語っていた。

 このうら若き侍女は、『一なる騎士』のために働けることが何よりうれしいのだ。
 彼女の思いをほほえましく思いながらも、王妃の心情は複雑だった。
 若き日の自分と重ねられるだけに。

「この子をよろしくお願いします。ほんとうは私が一緒に行くべきなのでしょうが……」

 王妃はかすかに首を横に振った。

「私は……、私はあの人をおいてはいけないから。私までもがあの人を見捨てるわけにはいかないから」

「王妃様……」

「私は母親失格ですね」

 どこか悲しげに、けれど毅然とほほえむ王妃にサーナは胸が痛かった。
 彼女は夫と娘の間に立って、苦しんでいるのだ。

「そんなことありません。王妃様は立派なお母様ですわ。それに王子様方だって、おられるのですから」

「ありがとう、ほんとうに感謝します」

 王妃はサーナを抱きしめた。

「気をつけて。元気で」

 サーナを離すと、王妃は再び地面にひざを突いて娘を胸の中に抱きよせた。

「さあ、もう一度顔を見せて」


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