一なる騎士
あらためて、幼い我が子の顔をのぞきこんだ王妃の顔に、憂愁の色が深まった。
青白い、血の気のない顔色。
血色がいいとはとても言えない。
人を魅了してやまぬ新緑の瞳の輝きは、失われてはいない。
けれど、抱きしめた体は骨ばかりで、子供らしいやわらかさを感じさせない。
精霊使いたちのもとへの旅に耐えられるのかどうか。
けれど、ここにいさせたところで、どうにかなるわけでもない。
しかも、命すら狙われると言うのなら。
姫の住まいから、火が出たと聞いたとき、息がとまるかと思った。
幼い娘の無事をアスタートが知らせてくれるまで、ただ胸が痛くて、痛くて、何も考えられなかった。
もうあんな思いには、とても耐えられそうにもない。
王妃は涙をこらえ、笑顔を作った。
「サーナの言うことをよくきいて、いい子にするのですよ」
セラスヴァティー姫は少し首を傾げると、ひどく慎重に母の顔を見上げた。
そして、ふいにとびきりの笑顔を見せた。
「母様、わたしはだいじょうぶ。わたしはおねえさんなんだから」
まるで母の心配を見抜いたような言動に、王妃は言葉を一瞬失った。
(なんて子なの)
あらためて『一なる騎士』の選択の正しさを思い知らされる。
(この子が、こんなに特別でなければよかったのに)
「……、そう、そうでしたね」
「王妃様、もうあまり時間が……」
我が子との別れを惜しむ王妃に、無情にも声をかけたのはアスタートだった。
王妃は身を起こし、今度はリュイスに視線を移した。
「私は、ここで見送ります。私は……」
なにかひどくもの言いたげなそぶりを見せたが、王妃は苦しげに首を振っただけだった。
「いえ……。もう行って下さい。時間がないのでしょう」
「では、失礼します」
リュイスに手を引かれたセラスヴァティー姫が、無邪気に手を振ってみせる。
「母様、さようなら」
「王妃様も、お元気で」
サーナが深々とお辞儀をすると、二人の後を追った。
青白い、血の気のない顔色。
血色がいいとはとても言えない。
人を魅了してやまぬ新緑の瞳の輝きは、失われてはいない。
けれど、抱きしめた体は骨ばかりで、子供らしいやわらかさを感じさせない。
精霊使いたちのもとへの旅に耐えられるのかどうか。
けれど、ここにいさせたところで、どうにかなるわけでもない。
しかも、命すら狙われると言うのなら。
姫の住まいから、火が出たと聞いたとき、息がとまるかと思った。
幼い娘の無事をアスタートが知らせてくれるまで、ただ胸が痛くて、痛くて、何も考えられなかった。
もうあんな思いには、とても耐えられそうにもない。
王妃は涙をこらえ、笑顔を作った。
「サーナの言うことをよくきいて、いい子にするのですよ」
セラスヴァティー姫は少し首を傾げると、ひどく慎重に母の顔を見上げた。
そして、ふいにとびきりの笑顔を見せた。
「母様、わたしはだいじょうぶ。わたしはおねえさんなんだから」
まるで母の心配を見抜いたような言動に、王妃は言葉を一瞬失った。
(なんて子なの)
あらためて『一なる騎士』の選択の正しさを思い知らされる。
(この子が、こんなに特別でなければよかったのに)
「……、そう、そうでしたね」
「王妃様、もうあまり時間が……」
我が子との別れを惜しむ王妃に、無情にも声をかけたのはアスタートだった。
王妃は身を起こし、今度はリュイスに視線を移した。
「私は、ここで見送ります。私は……」
なにかひどくもの言いたげなそぶりを見せたが、王妃は苦しげに首を振っただけだった。
「いえ……。もう行って下さい。時間がないのでしょう」
「では、失礼します」
リュイスに手を引かれたセラスヴァティー姫が、無邪気に手を振ってみせる。
「母様、さようなら」
「王妃様も、お元気で」
サーナが深々とお辞儀をすると、二人の後を追った。