一なる騎士
 城の裏口の手前で、リュイスは足を止めた。
 彼のためらうようなそぶりに気づいて、サーナが声をかけた。

「リュイス様?」

 サーナを振り返ったリュイスは、いつにまして真剣な表情をしていた。

「サーナ、一緒にいけなくてすまない。私は、まだここでやらなければならないことがある」

「わかっています」

「いつも君ばかりに負担をかけてしまって、申し訳なく思っている」

 すまなさそうに告げられた言葉に、サーナは頭を振った。
 そんなふうに言って欲しくはなかった。
 負担だなんて、一度も思ったことはなかった。

「そんな、謝らないで下さい。私は負担だなんて……」

「従兄殿の言われるとおりだ。君は強いな」

 リュイスの唇に自嘲まざりの笑みが浮かんでいた。
 けれど、ひどく優しい口調で言う。

「私は、君の強さに甘えてばかりいる」 

「私は強くなんかありません。ただ、セラスヴァティー様のためにできることをしてあげ
たいだけです」

「そうだな、君は姫君が生まれたときからの崇拝者だった」

 たしかにセラスヴァティー姫は、サーナにとっても大事な存在だった。
 姫が生まれ、一目顔を見たときから、サーナはそのかわいらしさに魅了された。

 自分の力の及ぶ限りのことをしてあげたいと願った。
 王に疎まれた姫を、守ってあげたいとも思った。

 でも、それだけではなかった。
 それだけで、ここまで来たわけではなかった。

 住み慣れた場を離れようと言うわけではなかった。

(わかっているのに。リュイス様は、姫様のことで精一杯で。私のことは、きっと姫様をお護りする同志くらいにしか思われていない。ううん、私はそれでもいいって、思ってる。思ってたはずだった。でも、少しくらいは気づいてくれてもいいのに)

 重い使命を背負って、それでもまっすぐな、この人の力になりたかった。
 心からの笑顔を見てみたかったのだ。

 サーナは伝わらぬ想いに、もどかしげに唇をかんだ。

 そんな彼女にまったく気づかずに、リュイスは片膝をつくと幼い姫君の顔をのぞき込んだ。

 どうしても言っておかなければならないことがある。

 
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