一なる騎士
 夢を見ていた。

 黒い髪に黒い瞳をした少年が、必死の様子で慣れない難解な言葉を紡ぐ。

「我は『一なる騎士』、大地の王を聖別し、守護するもの。そして、制するもの。大地の代弁者にして審判者。我は誓う。我が忠誠を。そなたこそ我が主にして『大地の王』。『大地』を守護し、平穏へと導くもの」

 少年は『一なる騎士』としての黒い正装を身にまとい、王は、いや、王となる者は純白の衣装をまとっていた。

 まるで、光と影。

 王が光なら、騎士は影。
 常に王の側に寄り添い、手を汚すことすらいとわぬ者。

「そして、我はまた誓う。王が道を違えたそのとき裁くのもまた我が勤め」

 まっすぐな信頼しきったまなざしが、見上げてくる。
 容赦なく、心の奥まで入り込んでくるような。

「我が忠誠故に」 

 白刃の輝きが、目前をよぎった。

「あなたはもう必要ない」

 冷たい声音は、すでに少年のたどたどしいものではない。
 大剣の切っ先が、己の胸に吸い込まれる。
 薄らぐ意識の中、見事な金髪に緑宝石の瞳の少女に青年がかしずくのが見えた。

 彼の『一なる騎士』が。




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