一なる騎士
 昔は、こんな目つきなどしてはいなかった。
 怖いほどに理知的で、厳しい色をたたえていた。
 だから、子供だったリュイスは余計に近寄り難かった。

 それが。

(人はこんなにも変わるものなのか)

 こんな酷い有様でも王の面差しは、かの姫君に。
 リュイスの真の主に似通っているだけに、心が痛んでならない。

(もっとはやくに来るべきだったんだ)

 彼が、こんなふうに追いつめられてしまう前に。
 苦い後悔の念がわき上がった

 だが、こんなふうにこの人の顔を見るのは、はじめてだったと思い返す。
 リュイスは『一なる騎士』とはいえ、爵位のない騎士の子どもに過ぎなかった。
 そして、対するヴィドーラは、前王の嫡子であり、聖別当時ほんの八つだったリュイスからみれば、自分など到底手の届かない雲の上の人だった。

 どうしても遠慮の方が先に立っていた。
 しかも、いつも遠ざけられていたのだ。
 まともな会話を交わすどころか、ゆっくりと顔を見ることすらかなわなかった。

 そして、今、無礼は承知の上で『一なる騎士』としての権限を振りかざし、王の寝室に踏み込んだのだ。もう二度とこんな機会はないだろう。

 今更、ここで退くわけにはいかなかった。
『大地』を道連れに、心中させるわけにはいかないのだから。
 たとえ彼をさらに追いつめようとも。

「用がないのなら、さっさと出ていけ」

 何も言わぬリュイスに、焦れた王が声を荒げる。
 しかし、リュイスは毅然と応じた。

「お話があります。『一なる騎士』として」

 はっと、王が息を飲む気配が感じられた。


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