一なる騎士
 あれから十日たった今、薬師とサーナ自身の手厚い看病が功を奏して、姫は食事も前よりも食べられるほどになり、頬にも血の気がもどって床からも起き出せる程度には、軽快していた。
 子供の回復力は大人より高い。確かに日一日と立つうちに薄皮のはげるように元気になっていった。薬師ももう心配はいらないと太鼓判を押してくれたけれど、それでもまだどこか危うげで、とても一人歩きなどさせられたものではない。

 まして、外の風、しかも冷たい冬の風に病みあがりの姫をさらす、などと考えただけで、サーナは気が遠くなりそうだった。

(ここに来たら、よくなるはずだったのに)

 ここに来るように取りはからったリュイスや精霊使いたちを、少しばかり恨みたい気分だった。

 と。

 チリリ。

 階下から玄関の呼び鈴が聞こえてきた。

「お客様?」

 と言っても、ここに来るものは限られていた。薬師か、数人の精霊使いくらいのものだ。

 セラスヴァティー姫の父、『大地の王』は、我が子を自分の側には寄せつけようとはしなくても、遠くにやろうとはしなかった。居場所が知れれば、連れ戻されるおそれもあった。その上、姫は何者かに命を狙われている。

 彼女たちの居場所は、いまだに慎重に隠されていた。

 サーナは針を慎重に片づけ、膝の上の縫い物を側のテーブルにうつすと、玄関に向かうべく身軽に立ち上がった。
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