一なる騎士
「伝言?」

「ええ。お母様からの」

 ふいにサジェルの口調が変わる。今までのどこかおずおずとした風は影を潜め、凛とした風格が声に宿る。それはどこか聞き覚えのある声音だった。

「気をつけなさい、リュイス。けっして、戦女神ナクーシャの力を借りることなきよう。ナクーシャは力を司るもの、けれど同時に災いをもたらすもの。ナクーシャの力に魅せられたものに、あるのは滅びのみ。貴方が選び、貴方が守護すべき女神の名をゆめゆめ忘れぬよう」

「私の選んだ女神?」

「女神の名はセラスヴァティー。豊穣を意味するもの」

 頭を殴られたような衝撃を覚えた。

 リュイスとサジェルの母はリュイスが三つの頃に病死していた。彼には母の記憶はほとんどない。

 なのに、なぜ二十年近く前に亡くなった母が、その名を名指しできたのか。女神の名は数多あると言うのに。単なる偶然と思えない。しかし、サジェルが嘘を言っているようにも見えなかった。

「それは、いったい?」

「さあ。ただリュイスが大きくなったら、伝えるようにと言われただけだから……」

 うつむいてしまう姉に、さっきまでの凛とした風格はない。


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